歴史と伝統が息づく銀座に、新たなカルチャーを呼び込んでいる銀座1~8丁目の新・名店の店主にバトンをつないでもらいながら、「銀座の街」のことをインタビュー。第2回は、行列が絶えない銀座2丁目のコーヒースタンド「BONGEN COFFEE」の白石航さんにお話を伺います

銀座2丁目の名店店主
BONGEN COFFEE
店主
白石航さん
PROFILE
ファッション関連の仕事を経て、2017年に「BONGEN COFFEE」を開店。焙煎所「SHIRAFUSHIROASTERS」も運営し、コーヒー豆の卸しや、コーヒー店の開業のサポート、焙煎・バリスタのトレーニングなども請け負う。この春には日本橋に新店舗をオープン予定
Instagram:@shirafushicoffeeroasters
地元の人々に見守られながら、銀座の新たなコーヒー文化を築く

明治末期にカフェが相次いで誕生し、日本ではまだ珍しかったコーヒーの普及にも大きく貢献したという銀座。そんなコーヒーと縁の深い街の片隅、銀座2丁目の路地裏にひっそりと佇む「BONGEN COFFEE」。コーヒーと盆栽の組み合わせた、和のしつらえが美しい個性派コーヒースタンドです。

オープンは2017年。前職はスタイリストだったという代表の白石航さんは、当時をこう振り返ります。
「コーヒーも盆栽も僕自身がもともと好きなもの。忙しない日々の癒しでもありました。そうした僕の“好き”をカタチにしたのが、BONGEN COFFEE。慌ただしい日常を過ごす方たちに、ほんの一瞬でもほっとしてもらえる場を作りたかったんです。
銀座への出店は大きな挑戦でしたが、日本を代表する街であり、世界的にも知られる銀座で認めてもらえたら、国内外のどこであろうと道が開けるのではないかと。あえてハードルを上げて、初めの一歩を踏み出しました」

「BONGEN COFFEE」があるのは、銀座の中心地から離れた東銀座エリア。しかも店を構えた界隈は大通りに面してないため、当時は“銀座のデッドソーン”と呼ばれるほど、店舗数も人通りも少なめだったとか。
「この場所を選んだのは、静寂を大切にしたかったこともありますが、店を始めた頃は本当に人出が少なくて。でも、ここで店を開いて、心底よかったと思っています。
東銀座エリアは、今も路地や古い家屋が残っていて、下町の風情があるんです。それに、昔からこの界隈にお住いの“地元の方”もいらっしゃる。しかもみなさん紳士的で、気持ちのあたたかい方ばかり。『白石くん、がんばって』『体調は大丈夫?』など気にかけてくださったりして、どんなに救われたことか。開店から8年が経とうとしていますが、ここまでこられたのは、地元の方たちの支えがあったからこそなんです」


銀座のローカルを感じるエリアで地元の人々に見守られながら、路地裏で営業を続けてきた「BONGEN COFFE」。やがてコーヒー好きたちの間で評判となり、今では外国の旅行者も多く訪れる行列必至の人気店に。
「コーヒー豆は世界の産地から選りすぐった高品質なものを自家焙煎します。豆の特製やその日の天候、気温などを考慮しながら、焙煎具合や火入れの時間を調整。渋みや雑味を取り除き、豆本来の甘み・うまみを引き出していきます」。そうした、こだわりの豆で淹れるハンドドリップコーヒーはもちろんですが、多くの人のお目当てとなっているのが、“ラテ”です。


「通常のラテ類でも一般的なエスプレッソの1.5倍の豆を使用しているので、コーヒーのコクやうまみをしっかり楽しんでいただけます。コーヒー豆は挽いてから3分ほどで劣化が始まっていくため、スピーディかつ丁寧に。トレーニングを積み重ねたバリスタが1杯ずつ淹れていきます」
ラテは種類も豊富。通常の2倍の量のコーヒー豆からエスプレッソを抽出する「ボンゲン ラテ リッチ」は、極濃厚でありながら、その苦みに奥ゆかしさがあって、ハイカカオチョコレートを思わせる豊かな味わい。さらに、「抹茶ラテ+エスプレッソ」などのお茶の香ばしさとコーヒーのほろ苦さが絶妙なジャパニーズラテも。どれもじっくり味わいたくなるものばかりです。
そして、白石さんのコレクションから1~2週間ごとに入れ替えする盆栽に、左官壁、焼き杉、格天井など、「ほっとくつろげるような茶室をイメージした」という店内。テイクアウトが主流のため、滞在時間はわずかではありますが、慌ただしい日常を忘れさせてくれる和の風情にも心が和まされます。

朝・昼・夜。ご近所での食事が、僕の元気を支えています

「東銀座エリアは個人店が多く、老舗など地域に根付く料理店から新しいお店まで、店主さんたちのこだわりを感じる、おいしいお店がたくさんあります。なので、銀座で外食するときは、店から歩いてすぐ行ける距離の2丁目、3丁目界隈で楽しむことがほとんど。僕の元気の源にもなっています」



そう話す白石さんがご近所で最も多く訪れているのが、オーナーシェフの皆良田光輝さんが腕を振るうフランス料理店「KAIRADA」です。「気さくで温厚なシェフとお話しするのが楽しいので、ランチ、ディナー問わず、ほっとしたいときにお邪魔しています。もちろんお料理も絶品!」。KAIRADAでは年間を通してさまざまなジビエが味わえ、狩猟免許を持つシェフみずからが仕留めたジビエが登場することも。「長崎の五島から直送される新鮮な魚の料理も楽しめます。僕はどちらも味わいたいので、ジビエと魚料理をメインでいただけるコースをチョイス。まさに自分へのご褒美ですね」



3丁目の「たらちゃん」は、韓国の家庭料理でもある干し鱈のスープ・プゴクの専門店。本場では干し鱈+牛テールのスープの組み合わせですが、こちらでは牛テールの代わりに、昆布、かつお節、いりこから出汁を取り、日本的なエッセンスを加えています。「営業は朝7時から。ここで朝食をとって仕事に向かうこともあります。優しい味わいのプゴクは朝食にぴったりなんですよね。それに副菜の自家製キムチもおいしくて。辛みが抑えられていて、まろやかなんです」
銀座2丁目の名店

BONGEN COFFEE
TEL.03(6264)3988
住所/東京都中央区銀座2-16-3
営業時間/午前10時~午後5時
定休日/なし
アクセス/東銀座駅または新富町駅より徒歩8分
BONGEN COFFEE HP
2丁目「BONGEN COFFEE」からバトン受け取る3丁目の名店は「bar cacoi」です
「bar cacoi」は、歌舞伎座の裏手にある隠れ家的なバー。和酒やお茶を使ったカクテルも得意とするバーテンダー・大場健志さんが営んでいます。「僕はお酒が飲めないので、バーに出かけることはほとんどないのですが、bar cacoiさんはノンアルコールでも気兼ねなく利用できる貴重な1軒。当店のコーヒー豆をお使いいただいたこともあります」(白石さん)
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA