2025年12月26日(金)―2026年1月13日(火)、年末から新年を飾る8枚のポスターが、東京メトロ銀座駅と松屋銀座をつなぐ地下通路に登場します。手がけたのは、日本を代表するグラフィックデザイナー・佐藤卓さん。佐藤さんは美濃焼のタイルを敷き詰めたこの地下通路のデザインをはじめ、長年にわたって松屋銀座とさまざまな取り組みを行っています。今回のポスターに込めた想いや、松屋銀座とのこれまでとこれからなど、お話を伺いました。

INTERVIEW
TSDO 代表
グラフィック
デザイナー
佐藤卓さん
PROFILE
東京藝術大学デザイン科卒業、同大学院修了。「ロッテ キシリトールガム」「明治おいしい牛乳」のパッケージデザインをはじめ、ポスターなどのグラフィック、商品や施設のブランディング、企業のCIを中心に活動。NHK Eテレ「デザインあ」「デザインあneo」総合指導、21_21 DESIGN SIGHTディレクター兼館長を務め、展覧会も多数企画・開催。京都芸術大学学長を務める。毎日デザイン賞、芸術選奨文部科学大臣賞、紫綬褒章他受賞。 TSDO HP
佐藤卓さんに、今回のポスターに込めた想いと、そのデザインをお聞きしました

「MATSUYA」のロゴと花々、縁起物で、松屋銀座らしさを8枚のポスターで表現
――今回はどんな想いでポスターのデザインに取り組まれましたか?
佐藤さん:銀座は日本でいちばん洗練されていなければならない街だと思っています。松屋銀座はその象徴のひとつ。大人の洗練された世界観を大切にしながら、でも決して大げさではない、“華やかさをさりげなく支えている”松屋銀座らしさを8枚のポスターで表しました。

――8枚のポスターで、松屋銀座らしさをどのように表したのでしょうか?
佐藤さん:白い紙に文字や絵を描く場合、その白い紙は“地”、文字や絵は“図”になります。今回はこの“地と図”の関係を8枚のポスターデザインに用いました。花を使用した7枚は、ぱっと見ると、まずは“図”となる華やかな花が目に入りますが、少し離れて眺めてみると、白地の部分がM・A・T・S・・・と、アルファベットになっていることがわかると思います。


――ポスターがずらりと並ぶと、白地が「MATSUYA」のロゴになっていることがよくわかります。
佐藤さん:ロゴを白地にしてあまり強調させないことで、主役である花の華やかさをさりげなく引き立てています。“地と図”がくっきりと分かれないよう、白地のところどころに花や草をはみ出させて、適度なつながりを持たせ、境目をあいまいにしてバランスを取りました。花の中に日本の縁起物を散りばめて、遊び心も取り入れているんです。


――1枚のポスターだけ見ても、いろいろな発見ができて楽しいですね。
佐藤さん:洗練されているだけでなく、大人の遊びやユーモアがあるほうが魅力的だと感じたんです。そして、艶やかかつ華やかな印象にしたかった。今の世の中は混沌としていて難しい課題が山積みですから。年末年始に銀座を訪れたときには、気持ちが高揚して、元気が出るようなビジュアルであるべきという想いが強くありましたね。
制作は現場の声を取り入れて、コツコツと丁寧に

――10月に都内のスタジオで行われたポスターの撮影現場を見学させていただきました。意外なほどアナログな工程に驚きました。
佐藤さん:写真はデジタルですから、加工や合成もしますが、基本的には実写を尊重しています。現場ではフラワーコーディネーターが敷き詰めた苔や葉っぱの上に花を一つひとつ活け、さらにその上にアルファベットの形に切り抜いた白いボードをのせて撮影。今はAIでなんでもできるような時代ですが、深みや細やかさを重視するなら、やっぱり手作業やアナログ的な手法が大切なんです。


――フラワーコーディネーターからは、お正月を意識して、洋風になりすぎないよう、マムやダリアなどキク科の花を中心に選んだとお聞きました。
佐藤さん:日頃からクライアントやプロジェクトのメンバーと、ディスカッションして作り上げていくことを大切にしています。今回は写真家、フラワーコーディネーターなどその道のプロフェッショナルたちのアイデアをかけ合わせて取り組みました。




――実際に完成したポスターをご覧になられての感想は?
佐藤さん:私が松屋銀座にプレゼンテーションしたときのものとは比べ物にならないほど、インパクトがあるものに仕上がりました。8枚のポスターが地下通路に並んだ光景を多くの方に見ていただきたいですね。

佐藤さんと松屋銀座のこれまでとこれから

――佐藤さんと松屋のかかわりは、どのように始まりましたか?
佐藤さん:実は東京藝術大学の大学院生のとき、松屋銀座のデザインアワードに応募し、入選して作品が展示されました。松屋銀座は日本のデザイン黎明期に名だたる方たちが立ち上げた「日本デザインコミッティー」の中心地ですから、学生なりにその影響力を感じていたのだと思います。
そして、今から30年ほど前にその「日本デザインコミッティー」からお誘いいただき、会員になりました。2001年より続けてきた展覧会「デザインの解剖」を最初に開催させていただいたのが松屋銀座。この展覧会は、後の私の可能性を広げてくれる機会になりましたし、松屋銀座とのかかわりも大きくなっていきました。
――これまでどんなプロジェクトに携わってこられましたか?
佐藤さん:2011年に7階「1953デザインギャラリー」リニューアルの際にグラフィックを担当したのをはじめ、企画展のアートディレクション、催事や季節行事のポスターなどを手がけました。地域共創のプロジェクトにも携わり、伝統工芸品や商品パッケージのデザインも担当しました。

――2019年の松屋創業150周年(1869年創業の松屋の原点「鶴屋呉服店」)のプロジェクトではクリエイティブディレクターを務められました。
佐藤さん:このプロジェクトでは、改めて「デザインの松屋」を打ち出すことを提案しました。松屋はいろいろなジャンルのデザイナーが集まる「日本デザインコミッティー」と長年にわたってともに歩んできましたから、日本の百貨店でデザインを語れるのは松屋しかないと思ったのです。
このとき掲げたのが「デザインとは、気遣いです」という定義でした。私が思うデザインは、先のことを考え、事前に何をしておくべきかを考えて実行すること。書類1枚作る場合も、ただ言いたいことを連ねるのではなく、第三者が読みやすい書類にすることはデザインであり、相手への気遣い。このような理念を社内全体に浸透させていきました。


――佐藤さんは、今回のポスターの展示会場でもある、150周年を記念して2019年にリニューアルした地下通路のデザインを担当されました。
佐藤さん:こだわったポイントは多々ありますが、そのひとつが通路の壁面に縦位置の大きなポスターが貼れる8つの額縁を並べたことです。都心部の駅構内には、最も大きい規格サイズのBO(1030mm×1456mm)のポスターを横位置で貼れるところはたくさんありますが、縦で貼れるところは、私の知る限り恐らくありません。今回のポスターもこちらに展示しますが、8連のビジュアルのスペースは、「デザインの松屋」というブランディングにかなり寄与できているのではと思っています。

――これからの松屋銀座に思うこと、期待することを教えてください。
佐藤さん:松屋はまず仕事が丁寧。ホスピタリティが素晴らしく、真面目で誠実な百貨店だということは、長いことご一緒しているのでわかるんですよね。だからこそ、より遊び心やユーモアみたいなものが加わるといいなと感じます。

私は“魅力的なわからなさ”という言い方をしてるんですけど、人がなにかに興味を持つときは、わからないから興味を持つんですね。「なにこれ」「もっと知りたい」と思った瞬間は、魅力的なんだけど、その実態がまだわからないんです。現代は、できるだけわかりやすいものを作る傾向が強いですが、そういうわからないおもしろさへのチャレンジを松屋とご一緒できたら嬉しいですね。
2025年の締めくくりと、新年の門出を祝うポスターを地下通路で公開!

2025年12月26日(金)―2026年1月13日(火)、地下通路にて、松屋銀座の年末年始を彩る「ありがとう2025おめでとう2026」のポスターが公開されます。デザインを手がけるのは、長きにわたって日本のグラフィックデザイン界を牽引してきた佐藤卓さん。8枚のポスターの艶やかな花々と、白いMATSUYAのロゴが生み出す美しきデザインを楽しんで。
「ありがとう2025おめでとう2026」のポスター展示
会期:2025年12月26日(金)―2026年1月13日(火)
会場:地下道ポスターギャラリー
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA
















