松屋銀座100周年を記念して、〈銀座木村家〉の五色あんぱん(桜、小倉、けし、うぐいす、白)と、〈清月堂本店〉の銘菓おとし文をモチーフにしたテキスタイルが誕生。開催中の「Ginza Christmas Marché(ギンザ クリスマス マルシェ)」にて、11月26日(水)より販売がスタートします。今回は、デザインを手がけた「gochisou(ゴチソウ)」のデザイナー・坂本あこさんと、企画を担当した松屋銀座婦人雑貨バイヤー・伊勢田京平さんの制作にまつわる対談をお届けします。

お話をお伺いしたのは

gochisou(ゴチソウ)
テキスタイルデザイナー
坂本あこさん

PROFILE

愛媛県出身。2016年に東京造形大学大学院デザイン科修士課程修了。同年、食をテーマにしたテキスタイルブランド「gochisou」を立ち上げる。おいしいものを食べたときのように、人を幸せにするテキスタイルを目指し、パンやお菓子、器などをモチーフにした鮮やかな図案を展開。昔ながらの染色法である手捺染(シルクスクリーンプリント)を用いて、生地はもちろん、洋服やバッグ、小物などのアイテムを提案している。

100年の節目に、100年以上の歴史のある老舗の食品をモチーフに

――松屋銀座100周年にあたって、gochisouさんとのコラボレーションを進めることになった経緯を教えてください。

伊勢田さん:松屋銀座の婦人雑貨売り場はテキスタイルが強いので、“100周年で何かやるならテキスタイル作家さんとご一緒したいな”とずっと思っていたんです。gochisouさんには、1年に1~2回、ポップアップの形でご出展いただいていて。2024年のポップアップのとき、坂本さんに「来年、うち100周年なんです。何かできないですか?」と話したところから始まりました。ファンの方がたくさんいらっしゃるブランドですし、何よりデザインがかわいいので。

坂本さん:100周年という節目に、夢のコラボレーションに声をかけていただけたことは光栄でした。歴史ある〈銀座木村家〉さんと〈清月堂本店〉さんの商品を“私が描いていいのかな?”とドキドキしつつ、うれしかったです。

――今回のコラボレーションでは、〈銀座木村家〉さんのあんぱんと〈清月堂本店〉さんのおとし文という、銀座を代表する老舗の銘菓がテキスタイルとして生まれ変わりました。そのユニークな発想は、どこから生まれたのでしょうか。

伊勢田さん:松屋銀座100周年のテーマが「つなぐ・つながる・つなげる」だと坂本さんに伝えたところ、案をいただいたんです。それが、100年以上続く老舗の代表的な食品をテキスタイルに落とし込む、という内容でした。

坂本さん:何を描こうかなと思ったときに、100周年という節目でもあるので、100年以上銀座で続くものに着目しました。せっかくなら松屋銀座の地下1階(GINZA フードステージ)にお店を構えるところにしようと、リサーチして候補をピックアップして提案しました。

伊勢田さん:そこから何社かにご相談を進める中で〈銀座木村家〉さんと〈清月堂本店〉さんにご賛同いただき、ご一緒できることになりました。今までにない初めての取り組みなので、温かく受け入れていただけたのはありがたかったですね。

“松屋銀座らしさ”を表現するため1964年の包装紙をインスピレーションに

――今回のテキスタイルのデザインは、どのように進めていったのでしょうか。

坂本さん:100周年を表現する意味を考えたときに、“包む”という、おもてなしの文化が素晴らしいなと思ったんです。それで松屋銀座の包装紙を調べていくうちに、1964年にグラフィックデザイナーの亀倉雄策先生がデザインした包装紙に出会いました。

今あらためて見ても、モダンでポップな表現に深く感銘を受けまして。今回のデザインのベースにさせていただいたんです。包装紙に構成を寄せて、あんぱんとおとし文をどう配置して、どう表現しようかと考えました。

伊勢田さん:松屋銀座からのリクエストは、特になかったですね。もう絶対にかわいくできると分かっていたので(笑)、「自由にやってください」とお任せしました。思いがけず、そこに松屋銀座の要素を入れていただけたのはうれしかったです。

坂本さん:単純に松屋銀座のロゴを入れるだけではなくて、“松屋銀座らしさ”を出したいなと思っていたので。私なりのリサーチの結果です。

――特にこだわったところを教えてください。

坂本さん:食べ物をモチーフにしているので、それぞれを観察したり、食べたりしながら、どの瞬間を表現しようかと探っていきながらスケッチし、配置を決めていきました。どちらも丸いモチーフなので構成しやすく、それぞれの大きさや個性をどう生かすかを考えました。おとし文は、上から見た絵だとよく分からないので、横から見た絵にしたのと、ホロホロ感が出るように割って中の黄身あんを見せ、リズミカルに配置しました。

間に入れた十字の模様は、和菓子によく用いられるクロモジの楊枝をモチーフにしています。全体のアクセントになるように緑を効かせ、冬の季節感に合うようにパキッとしたコントラストを意識して、最終的にこの配色になりました。

――制作過程で苦労したことがあったら聞かせてください。

坂本さん:おとし文のひび割れた感じをどう出すかですね。黄身あんの黄色がひび割れからのぞく感じや、ホロっとした口どけが伝わるように、色と形を調整しながら描きました。おとし文の大きさに対して、5種類のあんぱんをどう組み合わせるかも試行錯誤し、上からの図だけではなく、横から見た図も入れています。食べかけのところや、あんこが見える部分も表現しています。

アイテムを持つことで、銀座で生まれたパンと和菓子の歴史を感じてほしい

――できあがったテキスタイルをバッグとハンカチにしましたが、形はどのように決まったのでしょうか?

伊勢田さん:今回のバッグ2点と、ハンカチ1点は、gochisouの定番商品から選定しました。

坂本さん:そうですね。うちの定番商品を基に、ちょっと形を変えたり、ファスナーを付けたりして調整しています。汎用性の高いハンカチは、巻いたり、敷いたり、包んだりできるように大きなサイズにしました。

――実際の商品を見たときの印象を聞かせてください。

坂本さん:小さいサイズの食品がリズミカルに並んでいるデザインは、gochisouにはあまりない感じで、よくハマっているのではないかなと思います。おとし文はもちろん、あんぱんも初めて扱うモチーフだったので、制作がすごく楽しかったです。

――“お客さまにこういうふうに使ってほしい”という提案はありますか?

坂本さん:手に取っていただいたときに、銀座の街で愛されてきたパンとお菓子の歴史を感じてほしいです。日常に取り入れやすいアイテムになっていると思うので、使っていただくことで、食べる時間が楽しくなるといいなと思います。

伊勢田さん:裏地の色もいいですよね。おとし文の黄身あんの黄色に合わせているそうです。坂本さんは、ほんとすごいなって思います。

坂本さん:ありがとうございます。あと、今回は、生地の端にある耳の部分(ブランド名などが入る部分)をわざと商品に現れるようにデザインしたんです。通常は表に出ない部分ですが、バッグだと3個に1個、ハンカチだと2枚に1枚くらいの割合で出ています。出方もものによって違うので出会ったときのタイミングで、お好きなものを選んでいただければと思います。直接手に取って選んでいただける方は、より楽しんでいただけるはずです。

――今後、松屋銀座がgochisouさんと一緒にやりたいことは?

伊勢田さん:今回、〈銀座木村家〉さん、〈清月堂本店〉さんにご賛同いただいて形になったことで、“こんなことができるんだ!”と、ほかの食品の会社様も興味を持ってくださったらいいですね。それでまたコラボレーションの機会があったときに、ほかの要素が入ったスペシャルな企画ができたらおもしろいなって思います。テキスタイルに落とし込むのは、さらに大変になるかもしれないですけど…(笑)。

坂本さん:そこはがんばります(笑)。今後にまたつながるといいなと思いますね。

Ginza Christmas Marché(ギンザ クリスマス マルシェ)

場所:松屋銀座1階スペース・オブ・ギンザ
会期:2025年11月19日(水)-12月2日(火)
gochisouのコラボアイテムは2025年11月26日(水)より販売開始

<gochisouコラボアイテム>
トートバッグ5,060 円
ショルダーバッグ8,800 円
大判ハンカチ2,200円

PHOTO/NORIKO YONEYAMA TEXT/AKIKO ICHIKAWA