持続可能な社会へ向けた暮らし提案する松屋銀座の7回を迎えるイベント「BEAUTIFUL MIND」。こちらの特別企画「 BEAUTIFUL MIND with 高知県」の中で、2025年10月15日(水)―10月21日(火)に個展を開催する山師でウッドアーティストの高橋成樹さんにインタビュー。高知の森やアトリエを訪れて、森や木のこと、作品のことをお伺いしました。 

ARTIST

山師・ウッドアーティスト
高橋成樹さん

PROFILE

1997年、高知県香南市生まれ。高校卒業後、高知県立林業学校に入学。地元の林業の企業に3年間勤務し、22歳で独立。フリーランスの山師に。2020年からは出身地の香南市を拠点に山師・ウッドアーティストとして活動を行う
Instagram:@narukitakahashi


高橋成樹さんにインタビュー
~山師として高知の森のこと

太平洋に面して広がる高知県。海のイメージが強いかもしれませんが、実は山地がとても多く、森林率の高さは全国第1位。総面積の約84%を森林が占めていて、県木でもある魚梁瀬(やなせ)杉は日本を代表する杉のひとつとして知られています。

そんな日本一の森林県である高知で生まれ育った高橋成樹さんは、山師として森を整え育みながら、木を削って作品を生み出す若きウッドアーティスト。今回は高橋さんの活動拠点、高知県香南市の工房と山を訪れてお話を伺いました。まずは高橋さんと森とのかかわりから。

「祖父は製材業、父は大工という家庭で育ちました。小さな頃から木は身近な存在で、山師でもあった祖父の山に行くことは僕の日常でした。まわりの目を結構気にするタイプだったから、人にほとんど会うことがない山にいると、すごく楽で、素の自分でいられたんです。山で過ごすことがとにかく好きで、日々の楽しみでもありました」

祖父から、枝打ち(余分な枝を幹から切り落とす作業)などを教わり、一緒に山に籠って仕事を手伝うことも日常だったという高橋さん。山や森とのかかわり方や向き合い方などを、成長とともに自然と身に付けていきました。


高校卒業後に林業学校へ進学し、林業の企業に就職して山師となった高橋さんは、2020年、22歳のときに独立。それからずっと祖父から受け継いだ山を自身で管理し、森林を育てています。


「山師の大きな役割のひとつが、間伐して森林環境を整えること。間伐しないで放置しておくと、大きな木だけがどんどん成長して地面まで陽射しが入らなくなり、地盤がゆるんで倒木の原因に。事故や災害につながることもあるんです。しかも日光が当たらないと、実は大木より酸素を出す量が多い若い木が育たなくなってしまう。次世代に健康的な森林を残していくためにも、全体のバランスを考えながら、伐採期を迎えたら切って、また植えてと、循環させていくことが大切なんです」

そう聞いて、高橋さんの山を見渡してみると、美しく木立が並び、木々の隙間から覗く青空と陽射し、森をすーっと通りぬけていく風、漂う木々の香りを心地よく感じられます。

「この山には樹齢100年を超える木も残っていますが、中心となるのは、祖父が植林した、今年28歳になる僕の年齢と同じくらいの樹齢の杉と檜です。どちらも伐採期を迎えるのは樹齢50~60年頃。しばらく先になりますが、木々とともに歳を重ねながら枝打ちなどの手入れを続け、鹿に樹皮を食べられて成長が止まってしまった木や古い木など必要な間伐を適宜行って、この森林を守っていけたら」

ウッドアーティストとしての創作活動

高橋さんが山師として働いていくうちに芽生えたのが、森や木のことをもっと多くの人に知ってほしいという思いでした。

「山師という職業は認知度が低いうえに、木の伐採をするのは森林破壊、環境破壊と、悪いイメージを持たれることもありました。でも森林を人の手で整えることは、自然や暮らしを守ることにもつながります。まずは木に興味を持ってもらいたくて、好きなコーヒーを飲むための木のカップを小さな旋盤で作ってみたんです」

周囲の人々にも好評だったというコーヒーカップをきっかけに、高橋さんの存在が地元でじわじわと拡散。その後、知人の依頼で作ったケーキスタンドがSNSに投稿されると、注目度は一気に高まって、2020年にウッドアーティストとしての活動を本格的にスタートします。さらに2021年には東京のギャラリーに招かれて個展を開催。アーティストやクリエーターといった感度の高い人々からの厚い支持を集めるようになりました。

作品の素材は、自身の山で伐採した木に加え、ほかの山から出た間伐材、倒木、老木など、ほとんどが高知県産。製材された木材は使用せず、すべて丸太から作りあげることも特徴です。しかも完全な独学。あえてデザイン画を起こしたりはせず、ぞれぞれの木の色合いや年輪などに合わせて旋盤で削りながら、その日その時の感覚で形作っていきます。

「素材となるのは、樹齢50年以上の木で、なかには樹齢数百年というものもあります。厳しい自然界で長い年月を生き抜いてきた歴史もすごいですし、腐ったり、割れたりすることにも、木の生き様みたいなものを感じるんです。木のそうした点にも興味を持ってほしいので、加工をギリギリのラインで抑えて削りすぎないようにして、仕上げのニスやワックス、塗装もしません。欠点といえるような箇所も意識的に残すことで、それぞれの木の個性を見た目や感触で感じてもらえるように仕上げています」

確かに高橋さんの作品には、割れ目があったり、欠けていたり、黒ずんでいる部分があったり。節目や樹皮を残している物もあって、実に表情豊か。例えば定番で展開しているスツールは、用いる丸太それぞれの大きさを活かすため、サイズ感や曲線・くびれのフォルムがさまざま。座ってみると、なんとも心地いい木のナチュラルな感触。少しずつ色味を深めていくという経年変化も楽しみになります。

どっしりとした存在感ながら、繊細さや柔和さを感じさせる作品たちは、和室や洋室など、さまざまな空間に不思議なほどしっくりとなじんでいきます。それは高橋さんが作品に残した、自然の調和力があるからなのかもしれません。

「BEAUTIFUL MIND」で松屋銀座初の個展を開催

今最も注目されるアーティストのひとり、高橋成樹さん。東京、大阪、京都などで年に5~6回の個展を開催していて、都内で行われる個展の初日は毎回行列ができる人気ぶりです。2025年10月15日(水)―10月21日(火)、そんな高橋さんの個展を松屋銀座恒例イベント「BEAUTIFUL MIND」にて初開催。

会場では、スツールやローテーブルを中心とした約150点を展示販売するのほか、松屋銀座開店100周年を記念した2m、3mの新作オブジェや樹齢100年の木から制作されたスツールが登場。数量はわずかですが、高橋さんの代表作・ケーキスタンドも並びます。

インスタレーションは、これまでも高橋さんとタッグを組んできた、土佐和紙の伝統を守りながら、空間デザインなども手がける「浜田和紙」が担当。期間中は高橋さんが在廊予定(不在時あり)で、2025年10月18日(土)には、日本の民藝やクラフトに精通するモデルの高山都さんとのトークショーを開催予定です。

高知の森から届いたもうひとつの物語~土佐組子~

細い木片に施した凸凹型の溝・組手(くで)を組み込んで、釘を使わずにさまざまな模様を作り出す日本の伝統工芸・組子細工。障子、襖、欄間といった建具の細工として日本家屋を彩ってきました。「土佐組子」は、そうした伝統を次世代に残していこうと、高知市内の建具屋「岩本木工」の3代目・岩本大輔さんが2017年にスタート。高知県産の檜をメインに使用し、和モダンな建具や、カードケース、ギフトボックスなど、現代の暮らしにも合う組子アイテムを発信しています。

松屋銀座では、これまで「BEAUTIFUL MIND」やバレンタインイベントにて、ショーウインドウの装飾を担当。今回の「 BEAUTIFUL MIND with 高知県 高知の森からの贈り物」では、組子細工と同じく釘を使わずに木と木を組み合わせて建物を作る木組の技術で、高知県から集めた多彩な商品をディスプレイする什器の製作を担当。木のぬくもりを感じる什器で、会場と彩り、商品を引き立てます。

土佐組子

高知県高知市春野町西分80-1
TEL.088(850)3080
https://tosakumiko.jp/

高知の森からの贈り物「Naruki Takahashi solo exhibition」開催

今をときめく山師・ウッドアーティスト高橋成樹さんに注目!

2025年10月15日(水)ー28日(火)まで、松屋銀座各階で展開される「BEAUTIFUL MIND 毎日ひとつ私と誰かにいいことを」。その一環として、高知をテーマに多彩な商品がラインナップする「BEAUTIFUL MIND with 高知県」を開催。10月15日(水)ー10月21日(火)には、高知県出身、地元で山師・ウッドアーティストとして活動をする高橋成樹さんの個展を行います。

「Naruki Takahashi solo exhibition」
会期:2025年10月15日(水)―10月21日(火)午前11時ー午後8時
会場:松屋銀座1階スペース・オブ・ギンザ
入場:無料

PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA