歴史と伝統が息づく銀座に、新たなカルチャーを呼び込んでいる銀座1~8丁目の新・名店の店主にバトンをつないでもらいながら、「銀座の街」のことをインタビュー。第6回は、炉釜で焼くステーキで美食家たちをうならせる、銀座5丁目「神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮」のオーナーシェフ一宮宏行さんにお話を伺います。

銀座5丁目の名店店主
神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮
オーナーシェフ
一宮宏行さん
PROFILE
神戸出身、地元のフランス料理店にて修業。北海道 「ザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパ」のメインレストランではシェフを、銀座 「トロワフレーシュ」、「神戸牛炉釜炭焼ステーキIDEA銀座」、 日本橋の三田牛竈炭火焼き 「ウェスタ」では 料理長を務める。2019年に独立し『神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮』を開店
選りすぐりの神戸牛を炉釜で炭火焼きし、妥協のないおいしさを追求
最高級の美味なる一皿を求めて、国内外から美食家たちが集う銀座。お祝い事や記念日などに訪れたくなる名店が多彩に揃っています。そんな銀座ならではの一軒が、5丁目の裏通りにある「神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮」。

神戸出身のオーナーシェフ・一宮宏行さんが「銀座という最高の“食”の舞台で、故郷が誇る“神戸牛”の極上ステーキをご提供したい」と、2019年に開店。フレンチスタイルのフルコースのメインとして、炉釜で炭火焼きする神戸牛のステーキが堪能できます。
「肉に金串を差し、炉釜で炭火焼きするスタイルは、神戸のステーキ店『麤皮(あらがわ)』の先代シェフ・山田二郎さんが確立されました。山田さんのステーキを初めて食べたのは神戸での修業時代。それはもう感動的なおいしさで、通いつめるようになりました。


神戸牛として認定されるのは、黒毛和牛の最高峰である兵庫県産の但馬牛の中から、厳しい基準をクリアした牛だけ。僕は神戸牛を日本一の牛肉だと思っています。その神戸牛をよりおいしく味わっていただきたくて、炉釜でステーキを焼いています」
使用する神戸牛は、一宮さんが全幅の信頼を寄せる、神戸の但馬牛専門店 『扇矢精肉店』 の社長・垣本修一さんの目利きで競り落としたもの。その中から炉釜炭焼きに適した、純血統但馬牛でも特に稀少な雌牛のみを仕入れます。

「生産者の育て方や、牛それぞれの血統などで肉質はさまざまに変わります。例えばA5ランクであっても炉釜炭焼きに向かない肉もあるので、垣本さんとこまめに連絡を取り合いながら、脂の融点が低くて赤身の強い、炉釜炭焼に適した肉を見極め、神戸から送ってもらっています」

肉の部位はサーロイン、シャトーブリアンなど数種類を用意。紀州備長炭をくべた炉釜で、部位や肉質に合わせて火加減を調整して焼きあげます。「まずは備長炭の強い火力で表面を素早く焼いて、余分な脂を落とします。その後は釜の中で寝かせ、炭でいぶして焼き込んでいくことで、肉にゆっくりと火が入り、うまみが引き立つんです」


香ばしく焼きあがったステーキは、驚くほどふっくらとした口当たり。柔らかいのに噛み応えはしっかりとしていて、噛むほどに肉の甘みとコクが広がっていきます。味付けの調味料は兵庫県城崎の塩とコショウ、薬味は北海道産山わさび、生黒コショウ、にんにくチップのみ。ソースやたれはまったく必要ありません。

一宮さんのこだわりはステーキ以外にも。コース料理の前菜やステーキに添える野菜は、減農薬・無農薬の露地野菜を育てる千葉県松戸市の農園から、デザートなどに使用するフルーツは全国各地から取り寄せます。しかも、それぞれの生産者を訪ね、自身の目で栽培法や農作物を確かめています。
「野菜も果物も牛と同じで、生産者によって品質も味わいも変わってきます。銀座は日本中、世界中の良質なものが集まる街。それを楽しみに国内外からたくさんの方がいらっしゃる。だからこそ、生産者がどんな人か、どんな方法で栽培しているか、いろいろなことを知ったうえで、僕自身が納得できるものをご提供したいんです」

「神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮」を開いてから今年で6年。独立以前も含めると一宮さんの銀座歴は15年を超えました。
「銀座は飲食店だけ見ても、寿司、天ぷらといった専門店が多いですよね。ひとつのジャンルを極めていく、職人気質を感じる街。僕自身もそうでありたいので、銀座はとても肌に合うんです。それに働く人、訪れる方たち、街全体に漂う品格もとても心地いい。まだまだ先は長いですが、銀座の老舗に仲間入りできるよう、歩み続けていきたいですね」
仕事帰りのおなかを満たしてくれる、深夜営業の料理店によく訪れます
「開店前は仕込みや開店の準備などがありますから、肩の力を抜いてほっとできるのは午後11時の閉店後、深夜の時間帯になります。銀座はそんな時間帯でも食事やお酒を楽しみながらくつろげる店があるありがたい街。しかも食材や調理法にもこだわる、銀座らしい職人気質があって、深夜でも料理長が腕を振るっている。そうした店でのひとときが、仕事帰りの楽しみになっています」
しっかりめの食事にもぴったりな小さな路地のワインバー/Regal
一宮さんが仕事帰りによく訪れる「Regal」は、人がすれ違うのもやっとの狭い路地に佇む洋食ワインバー。営業時間は深夜3時(料理1時30分L.O.)まで。約30種のワインなど多彩なドリンク類に加え、フードが充実しています。

「ミディアムレアで仕上げる炭火焼の骨付き仔羊ラムチョップは柔らかく、うまみ豊かで、ワインのおともに最適。薬味として出される、シェフ手作りの赤ワインマスタードやカレー風味のスパイスがラムのおいしさを引き立てます。

そして、三重県鳥羽市出身の店長の家族が地元で養殖した岩牡蠣。身が厚く、ぷりっとしていて、濃厚かつクリーミー。とても後味がいいので2個、3個と続けて食べたくなります」
フードはほかにも、注文を受けてからソースを作るバーニャカウダーをはじめとする前菜に、「焼きそばが食べたい」というお客様の声から生まれた“ソース焼きスパ”などのパスタ。さらに肉&魚のメインディッシュやデザートも揃い、深夜でも存分におなかを満たしてくれます。


深夜に手打ち蕎麦が味わえる、銀座でも貴重な1軒/おそば照庵
外堀通りと銀座コリドー街に挟まれた裏通りにある「おそば照庵」も、一宮さんが仕事帰りに訪れる店。第一のお目当ては、「絶品」と太鼓判を押す手打ち蕎麦です。
蕎麦は石臼挽きの自家製粉そば粉を富士山麓の水で手打ちし、つゆはかつお節を2年以上熟成させた本枯節をその都度削って仕込むなど、こだわりが随所に。蕎麦の実を丸ごと挽いて作る黒蕎麦や、夏は抹茶、秋は柚子を練り込んだ季節限定の変わり蕎麦もあります。

「僕がいつも食べるのは、スタンダードのせいろ蕎麦。コシがあってのど越しのいい蕎麦と、出汁の効いたほんのり甘めのつゆのバランスが絶妙です。深夜でもこんなに本格的な蕎麦を食べられるのは嬉しい限り。蕎麦と併せて、1年中食べられる関西風だしのおでん、店長が手作りする豆腐を注文することも。蕎麦以外の一品料理もとてもおいしいんです」
お酒好きな料理長と店長が選りすぐった日本酒や焼酎も豊富な品揃えで、居酒屋感覚で利用できます。深夜2時(1時30分L.O.)までの営業です。



銀座5丁目の名店

神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座ー宮
TEL 03(5565)8083
住所/東京都中央区銀座5-14-14サンリット銀座ビルⅢ 8F
営業時間/午後6:00~午後11:00
定休日/日・祝
アクセス/東銀座駅よりすぐ
5丁目「神戸牛炉釜炭焼ステーキ 銀座一宮」からバトンを受け取るのは7丁目「鮨處やまだ」です
2012年に銀座7丁目に開店した「鮨處やまだ」。2023年に銀座コリドー街の複合施設「GRANBELL SQUARE」へ移転しました。カウンター8席の鮨店です。「店主の山田裕介さんは元大工という経歴の持ち主。一品料理などはなくコースは“にぎり鮨のみ”という彼の食に対するストイックさが好きで、たまに食事に出かけます」
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA