歴史と伝統が息づく銀座に、新たなカルチャーを呼び込んでいる銀座1~8丁目の新・名店の店主にバトンをつないでもらいながら、「銀座の街」のことをインタビュー。第1回は“一冊の本を売る”、銀座1丁目「森岡書店」の森岡督行さんにお話を伺います
銀座1丁目の名店「森岡書店」の森岡督行さん

銀座1丁目の名店店主
森岡書店
代表
森岡督行さん
PROFILE
1974年生まれ。森岡書店代表。著書に『800日間銀座一周』(文春文庫)などがある。『GINZA SIX Podcast「銀座は夜の6時」』ではパーソナリティーをつとめている Instagram:@moriokashoten
銀座の歴史的なビルから芽生えていく、この街へのリスペクトとあたたかな思い

銀座の中心地から離れた1丁目の裏通りに「森岡書店」が開店したのは2015年のこと。きっかけは、1929(昭和4)年に建てられた「鈴木ビル」との出会いでした。
「もともと昭和初期に建てられた建築に興味があって、その時代の建築を訪ね歩くことを趣味にしていました。その頃の建物は、関東大震災後の復興建築として建てられているので、日本らしさと西洋の近代的なものを融合させて、独自のスタイルを構築していこうという建築家たちの思いを感じられる建築もあります。
鈴木ビルもその1つ。その趣に加え、日本を代表する写真家・デザイナーを輩出した編集プロダクション『日本工房』の後進の『国際報道工藝』が戦前に入居していたという歴史にも強く惹かれていました。そして2014年12月、以前から交流のあった鈴木ビルの大家さんから、1階で40年間営業を続けていた喫茶店が閉店すると伺って。こんな機会は逃せないと思い、入居を決めました」

銀座への出店は「鈴木ビルがたまたま銀座にあったから」という感覚だったという森岡さん。街に対するイメージも“高級”という漠然としたものでしたが、銀座で実際に店を営み、働き始めてみると、その認識が日に日に変わっていったと言います。
「ランチや夜の会食で寿司店、焼き鳥店などへ行くと、料理に、器にと、店主たちの意識がすみずみに行き渡っていて、手仕事や手技の美しさ、素晴らしさに胸を打たれました。こうした繊細さが、ただただ高級なだけじゃない、銀座の街の1つの特徴になっていると、徐々に確信するようになっていきました。銀座ってすごい街だと」

銀座に森岡書店を開いてから10年。鈴木ビルと並ぶ銀座を代表する近代建築「奥野ビル」に新たな拠点も構えて、より銀座が身近になった森岡さんは、街の魅力をさらに深掘りしていきます。
「老舗の寿司や天ぷら、洋食、サンドイッチ、パフェ、ショートケーキ。銀座には街を象徴するおいしいものはいろいろとありますが、それらは食べてしまえばすぐに消えてしまいますよね。でも、この街に長い歴史や伝統があるからなのか、今後もずっと続いていく未来を感じるからなのか、そうした楽しみは一瞬なんだけれども、どこか永遠を感じるんです。その思い出が記憶にも場所にも残っていくような。そんな“一瞬と永遠が同居”している銀座の魅力が、多くの人々を惹き付けているのではないでしょうか」


森岡書店は、銀座はもちろん、世界的にもユニークな「一冊の本を売る書店」。開店からほぼ10年間、毎週のように本の展覧会を続けてきました。週替わりで1冊の本をピックアップし、その本から派生する作品の展示や商品の販売、著者の在廊など、訪れるたびに新たな出会いがあります。
「10年前は、販売する本を自分で決めて、出版社、編集者、著者にお願いに行っていたのですが、徐々に一緒にやりましょうというお声がけをいただけるようになりまして。今は、そういった方たちに選んでいただいているという感覚があります。私が詳しくない分野との出会いもあり、自分の世界観を超えた驚きにもつながって、視野が広がっていきます」


訪れる人もさまざま。毎週来店する人もいれば、著者のファン、その分野に興味がある人など実に多彩。海外からの旅行者も多いそう。
「毎日、いろいろな国の方がいらっしゃいます。世界中の観光客が集まる銀座ならではですよね。お客様から話を聞いてみると、京都の寺社巡りと組み合わせて、わざわざ訪れてくださる方もいらっしゃいます」
仕事の合間や仕事帰りに、銀座の街を気軽に楽しんでいます

「銀座には、手軽に楽しめるスポットも多彩です。シャネル、エルメス、資生堂、ポーラなど、有名ブランドやメーカによる入場無料のギャラリーやミュージアム。気軽にひと休みできるよう松屋銀座や銀座三越の屋上が開放され、最近はGinza Sony Parkも再び誕生しました」
買い物や街歩きがてらはもちろん、わざわざ出かけたくなる喫茶店の充実も銀座の魅力です。



森岡さんがよく訪れるのが、中央通り沿いの「HIGASHIYA GINZA」。二十四節気にちなんだ季節の生菓子などを揃える和菓子店で、全国の産地から選りすぐった茶葉を揃える、現代の“日本のティーサロン”がテーマの茶房が併設されています。「この店は私にとってまさにオアシス。二十四節気に合わせた茶葉や季節の果実を使ったお茶をそのときの気分で楽しみます。ゆったりと過ごせるので、打ち合わせなどで書店に来てくれたお客さんや知人と一緒に訪れることも。棗バターは私の手みやげの定番にもなっています」



1丁目の裏通りにある 「Bardon Organic Cafe」もよく訪れる1軒。ナッツやドライフルーツなど、おいしくて安全なオーガニック原材料を厳選し、素材の持ち味を引き出して作る、ヴィ―ガンスイーツが楽しめます。「このカフェがオープンして間もない頃、ふらりと立ち寄って買ったKanae Barがおいしくて。すぐにハマってしまいました。食べ応えがあって、ランチの代わりにすることもあります。昨年、執筆とイラストの仕事に追われていた時期は、毎日のように通って“5種のベリーボール”で疲れを癒しました」
銀座1丁目の名店

森岡書店
TEL.03(3535)5020
住所/東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1F
営業時間/午後1時~午後8時
定休日/月
アクセス/新富町駅より徒歩2分、銀座一丁目駅より徒歩5分
森岡書店HP
1丁目「森岡書店」からバトン受け取る2丁目の名店は「BONGEN COFFEE」です
銀座2丁目の「BONGEN COFFEE」は、和モダン空間と盆栽のディスプレーが個性的な自家焙煎のコーヒースタンド。「代表の白石さんには森岡書店に何度か来ていただいて、ハンドドリップコーヒーをお客様に提供してもらったことも。最近は特に、いつも混んでいるのでなかなか利用できませんが・・・白石さんのコーヒーとてもおいしいんですよ」(森岡さん)
PHOTO/MANABU SANO TEXT/MIE NAKAMURA