銀座で営みを続ける「名店の若旦那・若女将」にナビゲーターとして登場していただき、銀座の街の魅力から長年紡いできたお店の歴史をインタビュー。若旦那・若女将がつながるお店・場所などもお聞きしたので、銀座街歩きも楽しんでみたい。第4回は、伝統の味を守りながら、新しいチャレンジを続ける「銀座 天國」の5代目・露木佐瑛子さんにお話をお伺いします。

若女将
銀座 天國
5代目
露木佐瑛子さん
PROFILE
1986年東京生まれ、4代目露木基博氏を父に持つ3姉妹の長女。2015年より「銀座 天國」でアルバイトとして働きはじめ、2025年1月、5代目代表に就任。同年より「銀実会」の理事長を務める。2019年に結婚し、5歳の息子さんと3人家族
明治から親しまれる天ぷらを、次世代に受け継いでいく
毎朝の日課は、肝となる秘伝のタレのチェック
銀座の昼食どき、中央通りから3本裏の通りを歩くと、行列でにぎわう一角が見えてきます。ここが“銀座8丁目の天ぷら屋”として世代を超えて親しまれている天ぷら専門店「銀座 天國」が、2020年に移転オープンした新店舗です。 店に一歩入ると、ふわりと香るごま油とともに出迎えてくれたのは、4代目・露木基博氏の三姉妹の長女であり、2025年1月に5代目を継いだ露木佐瑛子さんです。

お店のはじまりは、いまからおよそ140年前――1885年(明治18年)のこと。
初代・露木國松氏が、現在の銀座3丁目にあたる場所で、小さな天ぷらの屋台を開いたのがその一歩でした。当時の天ぷらは、揚げたてをその場でさっと味わえる、まさに“明治のファーストフード”。当時の人々は仕事の合間や帰り道にふらりと立ち寄り、香ばしい一品に束の間のひとときを楽しんでいたといいます。
やがて時代は大正へと移り変わり、大正13年(1924年)。創業者の志を受け継いだ店は、銀座8丁目に「銀座天國ビル」を構え、天ぷらに加え、割烹、しゃぶしゃぶ、会席料理と、提供する味の世界を広げていきました。こうして、職人の技とおもてなしの心を大切にしながら、老舗としての歩みは静かに、しかし確かに育まれていったのです。


そんな長い歴史と想いを語ってくれた佐瑛子さんも最初から5代目を意識したことはなかったそう。お店の将来の話は、姉妹の会話の中でごく自然に生まれてきました。「『今後、お店をどうしていったらいいだろうか?』と姉妹で話すようになり、次女と配膳のアルバイトを始めたんです。こんなにも常連さんに愛されている店を、父の代で終わらせてはいけない、という思いが募り、姉妹で相談のうえ、私が受け継ぐことになりました」と佐瑛子さん。
5代目の日々は、陰ながら応援してくれているという4代目の「味を変えてはいけない」という言葉を守り、伝統を守る天ぷらと秘伝のタレの味のチェックを毎朝欠かさないそうです。
「天國の“江戸前天丼の命”とも言える丼たれは、常に火にかけ一定の温度をキープすることで、最高のコンディションを保ち続けています。揚げたての天ぷらと熱々のごはんの相性は抜群です」
伝統の味を守りながら、時代のニーズに合わせたスタイルに
現在の場所に中央通りにあった本店が移転したのは、2020(令和2)年。1階は、昔ながらの江戸前天丼や天ぷら定食などを気軽に楽しめる「銀座 天國」、2階は目の前で1品ずつ揚げる天ぷらカウンター「銀座天國 栞(しおり)」、3階は旬の素材を使った日本料理がいただける「和食ゆうづつ」。目的や用途に合わせた利用ができるよう3店舗で展開しています。
「料理人は、高校卒業と同時に入社された方がほとんどで、勤続20~30年の方も多い。というのも、うちの天ぷらの調理法は特殊なため、熟練の技が必要なんです。先代からも言われた、『職人さんはうちの宝』を心に刻んでいます」

伝統の味を守りながら、時代に合わせた進化を続ける「銀座 天國」。外国人向けのメニュー表に食べ方の説明をイラストで描くなど、店内には美術大学在籍の経験を持つ5代目ならではのアイデアも散りばめられています。
また2025年には、銀座の商店・会社経営者のメンバーで構成される地元青年団体「銀実会」の理事長に就任。例年8月に開催される「ゆかたで銀ぶら」や「東京マラソン」の運営サポートなど、地域発展のための活動にも精力的。
「祖父、父が歴代『銀実会』メンバーであったこともあり、私も銀座の街のために何かできればと。活動を通しての仲間との交流が原動力にもなっています」



こだわりは、卵をたっぷり使用した“厚めの衣“
「銀座 天國」で味わえるのは、厚めの衣が特徴の江戸前天ぷら。玉締め搾りのごま油をはじめ、数種の油を配合した独自の揚げ油を使用しています。
「新鮮な卵をたっぷり使用した衣は、揚げると軽い食感がありながらふっくら。天丼のたれを吸い込んでもヘタれない厚衣で、天國伝統の江戸前天丼を支える衣です」

「1階では、昔ながらの厚めの衣の天ぷらを。2階のカウンター天ぷら『栞』では、薄衣で軽い食感の天ぷらを提供しています。甘辛の丼ダレと相性よい厚衣の天ぷらと、素材を活かした薄衣の天ぷら。ぜひ食べ比べてみてください」

熟練職人による技で生み出される唯一無二の逸品
天丼の中でもおすすめは、しっかりした身の海老にきす、イカのかき揚と、茄子や蓮根が贅沢にのったA丼。
「揚げたての天ぷらを丼タレにさっとくぐらせると水分の沸く“ジュッ”っという小気味よい音がします。この時に天ぷらの余分な油が抜け、丼たれの味が染み込んでさらに天ぷらが美味しくなるんです。熱々のごはんとともに、風味豊かな江戸前天丼をお楽しみください」

もうひとつの名物が、天國特製かき揚。素材の旨みが凝縮していて、噛むほどに幸せ気分に。
「うちのかき揚は、具材を混ぜ合わせたものを一度に約3分で揚げ切る、伝統の一発揚げ。外はサクサク、中はふんわりやわらかな食感で、熟練の職人だからこそ作り上げられるひと皿です」

2階はカウンター天ぷら、3階は日本料理でおもてなし


2階にある天ぷらカウンター「栞」では、目の前で揚げる天ぷらとともに、職人との会話も楽しみのひとつ。
「カウンター天ぷらを始めたのは、祖父(3代目・露木直彦氏)。「栞」では、職人が目の前で揚げる天ぷらをゆっくり味わっていただけます」
天ぷら14点から楽しめるコース料理をはじめ、ランチには特製天丼も用意。臨場感あるカウンター席で、鮮度にこだわった揚げたての天ぷらをどうぞ。
3階は、時節の素材を気取らずに堪能できる「和食ゆうづつ」。鮮魚を使ったお造り、炭火焼など、1品料理やコース料理を提供。
「3フロアとも、母がセレクトした家具やインテリアが配置されています。『和食ゆうづつ』では、北欧の調度品や照明器具を使用。和モダンの空間でプライベートな時間をお過ごしください」



若女将・露木佐瑛子さんとつながる銀座さんぽ
「老舗から新しい店まで、魅力的な店がたくさんある銀座。特に、買い物や食事によく利用するのはお店構える8丁目と6丁目周辺。以前のお店の並びにあった『博品館』は5歳の息子もお気に入り。試遊できるコーナーも母としてはありがたいです」
国内外の個性豊かな文房具が集結「銀座 伊東屋 本店」
1904(明治37)年創業の文房具専門店。本館は地下1階から地上12階まで、文房具、雑貨、カフェなど多彩なフロアを展開し、買い物だけでなく1日のんびり過ごせます。オリジナルのギフトラッピングや、ペーパークラフト教室など新しい発見や体験も。

「絵を描くのが好きな私としては欠かせないスポット。コアな文具からおしゃれな商品が並んでいて見ているだけでも飽きません。お店のメニュー用のペンや鉛筆を買ったり、ギフト用の商品を選んだり。5階と8階は必ず巡回しています」


さらに、あづま通りには別館もあり、オリジナルノートを製本できる「Note Couture」や伊東屋オリジナルブランドの商品などこだわり文具が揃うので、文具好きは必見です!
〈文具〉銀座 伊東屋 本店

TEL.03(3561)8311
住所/東京都中央区銀座2-7-15
営業時間/午前10時~午後10時、日・祝~午後7時、12Fレストラン午前11時30分~午後9時(L.O.午後8時)
定休日/なし
アクセス/銀座一丁目駅より徒歩2分
銀座 伊東屋HP
クラフトビールをジビエ料理と共に楽しめる「麦酒屋 るぷりん」
北海道や静岡など、国産のクラフトビールを生樽で常時6種類用意。おすすめのフードは、店主がハンターから仕入れる羊や鹿、猪などの肉を炭火料理に。日光の四代目徳次郎の天然氷に、旬の果物と自家製シロップ&練乳を使ったかき氷も名物です。

「『銀実会』とメンバーとの2次会でよく利用している1軒。炭火焼のジビエ料理が美味しく、いろんな味のビールが試せます。〆のかき氷も楽しみのひとつ。洋酒のスプレーをかけて味変できるのも魅力です」



〈ダイニングバー〉麦酒屋 るぷりん

TEL. 03(6228)5728
住所/東京都中央区銀座6-7-7 浦野ビル3F
営業時間/午後3時~午後11時(L.O.午後10時)、火 午後5時~、土・日・祝 ~午後10時(L.O.午後9時)
定休日/月
アクセス/新橋駅より徒歩4分
麦酒屋 るぷりんHP
今回訪ねた老舗
PHOTO/KAZUHITO MIURA TEXT/NAOMI TERAKAWA