日本の文化芸術をクリエイティブ・プロデュースするユニットEBRUと、地域共創を掲げる松屋銀座とのコラボレーションで生まれた「吉祥花伝 KYOTO」のグリーティングカードと風呂敷。京都の丹後ちりめんにはじまり、染め、図案、金箔など、制作のほとんどを京都で行いました。今回は、EBRU代表の佐藤さんと、松屋銀座の企画担当・柴田さんによる対談をお届けします。企画のはじまりから完成までの制作秘話まで、たっぷりと語っていただきました。

PROFILE

株式会社EBRU

佐藤怜さん、先山絵梨さん、田邊樹美さん、金沢美術工芸大学の工芸科を卒業した3名で運営しているものづくりユニット。大学卒業後、ファッション、特殊メイク、陶磁器の別分野でそれぞれが経験を積んだのち、2021年に日本の文化芸術をクリエイティブ・プロデュースする会社EBRU(エブル)を設立。美術工芸に慣れ親しんだ経験を活かし、作り手とユーザーの視点をつなぐことで、持続可能な製品開発を行っている。

ものづくりに対する想いがつながってコラボレーションが実現

松屋銀座 柴田さん:EBRUさんとコラボすることになったきっかけは、昨年(2024年)11月の展示会ですね。そこでEBRUさんの使わなくなった着物をリメイクした「吉祥花伝」というグリーティングカードを拝見しまして。今までに見たことのない美しいデザインに興味を持ちました。

EBRU佐藤さん:ありがとうございます。多くの事業者さんが出展されている展示会だったんですが、たまたま柴田さんが立ち寄ってくださったんですよね。

松屋銀座 柴田さん:この着物の部分を、現在も作られている伝統的な生地に置き代えたら、地域産品の新しい活用法になるのでは?と思って。その場でお声掛けしました。

EBRU佐藤さん:ものづくりに対して同じ想いを持っている方に出会う機会は少ないので、「吉祥花伝」に共感していただけてうれしかったです。想いがつながって、おかげでそこからあっという間にお話が進みましたね。

松屋銀座 柴田さん:そうですね。今回、私としては「丹後ちりめん」を取り入れたいという想いがありました。京都府与謝野町で受け継がれてきた伝統の織物で、松屋銀座と与謝野町は、共創のパートナーとして関わって3年目。先日、連携協定を結んだばかりなんです。

EBRU佐藤さん:松屋銀座さんは、全国各地の作り手や職人さんとつながっていて、地域との関係を大切にされているのが印象的でした。今回は「国内問わず楽しんでいただけるお土産に」というテーマと、「ディスプレイにも映える」という条件があり、それに合う素材や技術を一緒に探すところから制作がスタートしました。

松屋銀座 柴田さん:その中で核となる「丹後ちりめん」は与謝野町の織元・山藤(やまとう)さん、染めは京都市内の馬場染工場さんにお願いすることはすぐに決まりました。そこから、生地の図案は京都の千総友仙工場さん、金箔は堀金箔粉さんにお願いして、「せっかくなら、すべて京都で作りたいね!」と話が進んでいきましたよね。

EBRU佐藤さん:「こういう職人さんとつながりがあるから見に行こう!」と柴田さんにお声掛けいただいて、一緒に京都に行って、実際の現場と工芸品を見て、アイデアを詰めていきました。

松屋銀座 柴田さん:京都では、飛び込みで玩具店を訪問したこともありましたよね。

EBRU佐藤さん:そうでしたね。京都入りした日の夜、千総友仙工場さんに描いていただく図案の題材をどうするか考えていて、“京都の玩具って何があるんだろう?”と調べたら、伝統玩具を作っている会社が1社だけ残っていることを知ったんです。さっそく次の日に伺って、お話をして、その場で「人形を図案に使わせてください」とお願いしました。

京都ならではのネットワークに助けられて困難な場面を回避

松屋銀座 柴田さん:生地の方向性は見えてきたのですが、次に悩んだのがグリーティングカードに使う「和紙」でした。ある日、京都でEBRUさんと「生地の方向性は見えてきたけど、紙をどうしよう…」となりまして。そこで思い出したのが、松屋銀座と以前からご縁のある京都府庁の「染織・工芸課」でした。その場で「明日行きます!」と電話して、それで京都でアートブックやクラフト印刷などを手がける印刷会社・修美社さんを紹介していただきました。

EBRU佐藤さん:そのあと、和紙を染める工場を探していたら、修美社さんが大塚染工場さんを紹介してくださったんですよね。伝統工芸が盛んな京都でも、工房がどんどん減っていて、技術の継承が難しくなっている現実を目の当たりにしました。

松屋銀座 柴田さん:丹後ちりめんでいうと、機屋(はたや)の軒数はコロナ後、大幅に減少してしまったんですよ。

EBRU佐藤さん:そうだったんですね。私がいちばん印象に残っているのは、馬場染工場さんから聞いた「産業として残すためにどうするか」のお話ですね。工場が減ってしまうと分業ができなくなって、全部ひとりで作ることになってしまうんですよね。馬場染工場さんはそれを止めようとしていて。松屋銀座さんもその想いを持っていますよね。

松屋銀座 柴田さん:そうですね、私たちも、産業としてこの技術を残していきたいという気持ちは強く持っています。

EBRU佐藤さん:松屋銀座さんは「日本の工芸をディスプレイに使うことで多くの人に知ってもらいたい」という想いがあり、馬場染工場さんも「自分たちだけが儲けるのではなく、いろんなところに関係性を作ってみんなで底上げしていこう」という想いを持たれていて。つながりを重視する姿勢が、今回随所に感じられました。

松屋銀座 柴田さん:京都は分業制で伝統的なものづくりをしてきた街だけあって、ネットワークがしっかりしていて、人と人のつながりが強いんですよね。困っていると誰かが助けてくださる。今回もまさにその連携に助けられました。

EBRU佐藤さん:今回、松屋銀座さんと一緒にプロジェクトに取り組んで、百貨店がここまで地域や作り手と深く関わってものづくりをしていることに驚きました。表層的なコラボレーションではなくて、継続されていることも素晴らしいなと思います。地域共創プロジェクトは何年目ですか?

松屋銀座 柴田さん:6年目ですね。

EBRU佐藤さん:長く続けていらっしゃるのは、本当にすごいことだなと感じました。松屋銀座にいらっしゃるお客様に、伝統と新しいことを組み合わせて、バランスよく、松屋銀座のお客さまに伝えている印象があります。

松屋銀座 柴田さん:百貨店は、既存の商品をどう見せるかという“見せ方勝負”に慣れているところがあって。新しくものを作る余裕って、なかなかないんですよ。私たちはそこから新しいことに挑戦するといいますか。地域の方やデザイナーさんと一緒にものづくりをして、地域のいいものをブラッシュアップしながら、地域の魅力を発信していく方向に少しずつシフトしています。

EBRU佐藤さん:まさに「地域共創」ですね。

グリーティングカードと風呂敷の美しさをショーウインドウで展開

EBRU佐藤さん:今回の「吉祥花伝 KYOTO」は、こだわりばかりなんですけど、いちばんは図案のかわいさですね。古典的な模様を使いつつ、色のバリエーションで若い方の感性にも響くようにしています。5種類の柄があって、1色目は伝統に基づいたスタンダードな色使いですけど、2色目はちょっと攻めた色使いにしています。

松屋銀座 柴田さん:途中から「色違いもかわいいから作ろう」と広がっていったんですよね。同じ柄でも色使いでまったく違う印象になるから、おもしろいです。

EBRU佐藤さん:柴田さんからは「京都の方にも愛着を持ってもらえるように」というオーダーもありました。デザインを決めるときは、京都の千総友仙工場さん、馬場染工場さんも一緒に “京都らしいものって何だろう”と、図案を広げながら話し合いました。

松屋銀座 柴田さん:地元の方から“これ、京都らしくないよね”と思われてしまったら、誰のための商品なの?となっちゃいますからね。地元に愛されないものは長く続かないということは、地域共創プロジェクトをやってきて分かったことなので。

EBRU佐藤さん:今回のグリーティングカードはメッセージを書くだけではなく、各カードの柄に込められた「吉祥(=縁起の良いことを象徴するモチーフ)」ごとに想いを贈ってもらえたらと思います。それぞれの柄には、長寿や幸福、繁栄などを願うモチーフが使われています。幸せを願う気持ちは世界中で変わらないと思うので、日本の方はもちろん、呉服の文化を詰め込んだギフトとして、海外の方にも積極的に贈っていただけたらいいなと思います。

松屋銀座 柴田さん:松屋銀座としても、日本のブランドを育てていきたいという想いがずっとあるので。地域共創プロジェクトをやりながら、世界的に認知してもらえるものを作っていきたいですね。

EBRU佐藤さん:私たちも同じ想いです。「なんで布なの?」とか、「封筒に模様が入ってる!」とか、会話が広がって、日本の文化を共有していただけたらうれしい。そして呉服にも興味を持っていただけたらと思います。

松屋銀座 柴田さん:今回は、グリーティングカードと同じ柄で風呂敷も作ったんですよね。

EBRU佐藤さん:はい、風呂敷とグリーティングカードの両方に美しく使えるよう、計算して図案を作ってもらいました。カードは、カットされる部分によって印象が違うので、店頭で選ぶ楽しみがあると思います。

松屋銀座 柴田さん:それらの美しさを組み合わせて、館内のディスプレイに活かしています。今回、地域素材を使ったディスプレイから進化させて、雑誌のような読み物のように楽しめる、という試みなんですよ。丹後ちりめんのことや柄の説明も盛り込んでいるので、松屋銀座に入ったらちょっとだけ知識を得て帰れます(笑)。

EBRU佐藤さん:ディスプレイをきっかけに日本の文化を好きになってもらえたらいいですね。しかも、使われている素材は商品なので、実際にその世界観を自分のものにできる、という楽しさもありますね。

「吉祥花伝 KYOTO」

全10種(5柄/各2色)2,640円 ※2025年7月23日(水)から販売開始
販売場所:松屋銀座1階プロモーションスペース2025年7月23日(水)~8月5日(火)、松屋銀座7階おりふし2025年7月23日(水)~8月19日(火)
ほかに、東京都内と京都府内のホテル・セレクトショップ・おみやげショップなどでも販売予定

7月22日(火)から8月19日(火)まで、松屋銀座1階正面ショーウインドウと地下各ショーウインドウ(全11か所)※地下各ショーウインドウは7月23日(水)から、店内各所で「吉祥花伝 KYOTO」のディスプレイを実施

PHOTO/NORIKO YONEYAMA TEXT/AKIKO ICHIKAWA