松屋銀座開店100周年を記念して、特別ガイドツアー「松屋銀座開店100周年記念企画 松屋銀座をもっと知ろう! 温故知新ガイドツアー」が5月に開催されました。松屋に29年間勤務し、現在は松屋グループの東京ファッション専門学校校長を務める田代健先生のナビゲートで、知る人ぞ知るスポットや普段は立ち入ることのできない裏側などを巡りつつ、松屋友の会の会報誌『Positive』で掲載された松屋銀座の歴史トリビアにも触れられる、スペシャルな90分間。各回、即満席御礼となったツアーを振り返ります。

ツアーガイドを務めたのは
田代 健さん
松屋を中心にグループひと筋40余年のキャリアを持ち、これまでに「松屋150年史」の副編集長などを務める。現在、松屋グループである東京ファッション専門学校校長
守護神たちが宿り、守り続けて——1階の“梵字”を巡る

「それではツアーを開始します」。田代先生の案内で10人の参加者が正面口から1階の店内に進むと、早速、見どころのひとつ、「梵字(ぼんじ)」のプレートの紹介が始まりました。
梵字とはインド古語(サンスクリット文字)を表し、日本では仏教の世界で文字自体に仏や神の力が宿っているといわれています。そんな神秘的な梵字が、松屋銀座1階の天井に5箇所、設置されているのです。
「松屋銀座の東西南北を鬼や悪物から守るために、仏教の守護神「四天王」を表す梵字が設置されています。東には『持国天(じこくてん)』、西には『広目天(こうもくてん)』、南には『増長天(ぞうちょうてん)』(「ロエベ」奥の通路の上)、北には『多聞天(たもんてん)』(京橋口案内所前の上)がいらっしゃるんですよ」と田代さん。
松屋銀座が1964(昭和39)年の大増築をした際に、出入口が鬼門に当たるとの指摘を受け、当初は屋上の不動尊を移設する案も検討されました。しかし、不動尊を動かさない方針が採られ、最終的には東西南北の出入口に四天王を表す「梵字プレート」を設置するという形に。設置に至るまでには、構想から実現まで約9年を要したそうです。


フロアの中央付近には「帝釈天(たいしゃくてん)」がいらっしゃるのをご存知でしょうか。例えるなら、四天王の上司のような存在であり、2001(平成13)年の大規模リニューアルの際に設置されました。「なぜこの位置にあるかわかりますか?」田代さんからクイズが出題されましたが、答えは後ほど。


唯一、バックヤードの商品ストック場内に設置された「持国天(じこくてん)」は見学がかないませんでしたが、従業員の中でもほとんどが実際に見たことがないというレア度。今回のツアーでは特別に動画で見ることができ、貴重な機会でした。
屋上から松屋を護る——龍光不動尊

屋上まで移動し、隠れた名物スポット、龍光不動尊(りゅうこうふどうそん)へ。神社と間違えそうですが、大宇宙の中で最高位の仏様「大日如来(だいにちにょらい)」の化身である、「不動明王(ふどうみょうおう)」を祀っています。
その名も、「龍光不動明王(りゅうこうふどうみょうおう)」。高野山龍光寺からお迎えしたもので、店の守護神として、1929(昭和4)年に奉安されました。品格が漂うお堂は、平安神宮や神田明神なども設計した、当時の宮内省内匠寮勤務の青池安太郎によるものです。

参拝すると、「禍を転じて福となす」とされ、願いが叶う、家内安全、商売繁盛といったご利益があるといわれています。「『龍光』が『流行』に通じるということで、ファッションにご利益があると、業界の方がお参りくることも多いんですよ」と田代さん。
ここで、先ほどの1階の「帝釈天」に関するクイズの答えが。なんと、この不動尊のちょうど真下にくるようにと、店の中央付近に設置されたそうです。
「東西南北の四隅を四天王が、中央には『帝釈天』が、そして屋上には御不動様がいらっしゃる……こんなに守られている松屋銀座は、パワースポットだと思います」(田代さん)
特別ツアーならではのトリビアが盛りだくさん

普段は従業員しか入れない事務館の中や、昔の建物の面影が残る裏側、松鶴マークなど、さまざまな場所を巡ったツアーの最後には、田代先生によるレクチャーも行われました。
なかでも印象的だったのが、松屋銀座中央ホールの解説です。
紹介されたのは、1925(大正14)年の開店当時の様子を描いた精巧な絵画(上写真右)。ステンドグラスの円形天井や、大理石の市松模様が広がる1階フロアが丁寧に描かれており、当時の館内の様子が伝わってきます。また、1956(昭和31)年にホールを見下ろせるように設置された「中央ホール完成当時の写真」(上写真左)も取り上げられました。
その後、1989(平成元)年には大規模改装を行い、名称も「スペース・オブ・ギンザ」へ変わり、2017(平成29)年に現在の姿にリニューアル。昔の立派な吹き抜けには驚きの声が上がり、「スカイ・リボン」の様子が記憶にあるという参加者の方もいらっしゃいました。
あっという間に時が過ぎ、拍手とともにツアーが終了。見どころ満載ですべてお伝えできないのが残念ですが、「知らなかった」「印象に残った」と参加者の方々からも声が挙がった、松屋銀座のトリビアをいくつかご紹介します。




もっと多くの方に松屋ファンになっていただいて、愛着ある場所に

今回の特別ツアーをどんな想いで企画されたのか、田代先生にお伺いしました。
「今回応募してくださったのは、基本的に“松屋ファン”の方々なんです。私にとっては22、23歳のころからの本拠地ですから、今まで得た知見を活かして、松屋の独自性や知られていないことを少しでもお伝えできればと。梵字やつばめの巣なんて、知らなかったでしょう? 参加者のご家族や友人の方々への話の種に使ってもらえば、松屋ファンの輪が世代を超えてもっと広がるのではないかと期待しています」
これから先の100年も、松屋銀座は愛される場所であってほしい、と田代先生は願いを込めます。
「今回のツアーでは、店舗やサービスなど、この100年で起こったさまざまな変化についてもご紹介しました。一方、松屋銀座は“銀座の地方百貨店”として銀座の街にずっと根ざし、共に発展してきた関係です。今後も時代に合わせてしなやかに変わり続けながらも、銀座という土地との結びつきを大切にして歩んでいってほしいですね」
PHOTO/ HIKARI TABUCHI TEXT/KAORI AKIYAMA