歴史と伝統が息づく銀座に、新たなカルチャーを呼び込んでいる銀座1~8丁目の新・名店の店主にバトンをつないでもらいながら、「銀座の街」のことをインタビュー。第4回は、銀座4丁目の東銀座エリアに店を構える「ぎんざ鮨一代 有吾」の阿部有吾さんにお話を伺います。

銀座4丁目の名店店主
ぎんざ鮨一代 有吾
店主
阿部有吾さん
PROFILE
1975年生まれ。横浜の鮨店での修業、調理専門学校での3年間の教員生活を経て、東京で鮨職人のキャリアを本格スタート。日本橋、渋谷、西麻布、銀座の鮨店で腕を磨き、2010年に独立して3丁目に「「ぎんざ鮨一代 有吾」を開店、その後2022年8月に4丁目に移転オープン
名店が集まる鮨のメジャーリーグ“銀座”で思いを貫く
銀座を代表するグルメのひとつ“鮨”。街には、歴史ある老舗から進化系が味わえる新店まで多種多様な鮨店が多く集まっています。
そんな銀座で約20年にわたって腕をふるい続けているのが、銀座4丁目「 ぎんざ鮨一代 有吾」の店主・阿部有吾さんです。

阿部さんは、3丁目の東銀座エリアの鮨店で6年半ほど店長を務めた後、2010年にその店を引き継いで独立。自身の名前を掲げた「ぎんざ鮨一代 有吾」を開店し、歩みを積み重ねていきますが、10年ほど経ったある日のこと。交通事故に合い、生死をさまようほどの大けがを負ってしまいます。
「入院やリハビリで復帰に1年9カ月かかりました。その間は常連さんたちに励ましていただいたり、近所のお店の人たちに助けてもらったり。苦悩の日々の大きな心の支えになりました。休業中の細かな業務を担ってくれた妻にも感謝しています」

営業の再開は2022年夏。3丁目から4丁目に移転し、これまでと同じ東銀座エリアで新たな一歩を踏み出します。

「銀座には華やかなイメージがありますが、東銀座はオフィスが多いせいか、ちょっと違ったムード。日常的というか、人の温度感が伝わってきて、とても肌に合うんです。
それに銀座は、鮨の老舗や名店が多くて、お客様のレベルがとても高い。野球をずっとやってきた僕にとって、鮨のメジャーリーグのような場所でもあるんです。鮨屋をやるなら、そういう最高峰の街で続けていきたくて」

そう話す現在の阿部さんは、仕入れも仕込みもすべてひとりで行っています。「仕入れのときは、必ず魚を自分の手に取って選びます。例えば10尾のアジを仕入れるとき。発泡スチロールのボックスにどっさりと入ったアジの中から“ベスト10”を選びたいので、身の硬さ、脂の冷え具合など自分の手の感覚で確かめるんです。選んだ魚を店で下ろしてみると、自分の目利きが正しかったかどうかの勉強になりますし、正しければ自信を持ってお客様に出せますから」

そうして仕入れた魚に、阿部さんは必ずひと手間をかけます。ネタのおいしさを引き出す“仕事”を施して、現代風の本格江戸前鮨に仕上げます。
「江戸前鮨は冷凍庫がない時代に誕生したので、生魚を酢や塩で締める、たれに漬けるなど、日持ちするように工夫していました。その基本的な手法は当時と変わりませんが、僕が作るのは今の時代の江戸前鮨。うまみを引き出すためのひと手間や工夫を大切にしています」


塩をして臭みを抜き、酢でうまみを封じ込めたコハダ、醤油の塩分で余分な水分を抜き、うまみを凝縮させたマグロの漬け、軽く湯引きしているのにまるで生のような味わいのカキ…。高い技術力から生まれるネタ自体のおいしさはもちろん、口の中でふわっとほどけるようなシャリとのバランスも絶妙です。




鮨は天然無垢材一枚板のカウンターで、阿部さんが鮨をにぎる姿を目の当たりにしながら堪能。夜は13000円、15000円、18000円のおまかせコースのみ。にぎりのほか、阿部さんが腕を振るう先付け、お造り、海鮮茶わん蒸しなども登場します。


「近所で働いている方たちがランチを気に入ってくれて、奥様の誕生日や記念日など特別なときのディナーに利用してくださるんです。そういうのがとても嬉しくて。銀座の鮨は超高級というイメージがあるかもしれませんが、ちょっと贅沢したいときに来ていただけるような1軒でありたいと思っています」
銀座でいちばんなじみがあるのは、やっぱり3丁目の東銀座界隈ですね
「16年半過ごした3丁目の東銀座エリアは、今でもとてもなじみ深い場所。個人店が集まっていますが、ライバル的な意識はあまりなく、尊重し合えるような人と人のつながりを感じさせてくれます。互いの店を行き来したり、お客様を紹介し合ったりすることも。銀座でおすすめの店を教えてと言われたら、真っ先に思い浮かぶのが3丁目の店なんです」
名物は“牛のヒレカツ”。自家農園の野菜も美味な肉ビストロ/IBAIA
「ぎんざ鮨一代 有吾」と共通の常連が多いという「IBAIA」は、肉ビストロの名店として知られる路地裏レストラン。店主の兼安聡子さんが接客し、兼安さんと同じ銀座のレストランで修業を積んだシェフの深味雄二さんが腕を振るいます。

「IBAIAさんは、なにを食べてもうまい。深味さんが得意とする揚げ物をはじめ、どの料理も火の通し加減が絶妙なんです。朗らかな聡子さんの接客も心地よくて、友だちと銀座で食事するときは、ここがいつも第一候補」



看板料理は、フレンチのテクニックで作られる「名物“牛のヒレカツ”」。分厚い牛ヒレ肉はほどよくレアで、口当たりはしっとり、しかもかみ切れるほどの柔らかさ。きめ細かく仕上げたパン粉に混ぜ合わせたパセリとニンニクの風味が肉のうまみを引き立てます。そのまま食べてもおいしいですが、赤ワインとポルト酒、トマトなどを煮こんで仕上げたソースを絡めて味わうとまた美味。店主の両親が育てる、自家農園の旬の野菜を盛り込んだメニューも評判です。
デコレーションも美しい予約制の高級ショートホールケーキ/crèam fraise génoise

「この店のショートケーキはほかでは味わったことのないおししさ」と阿部さんが話すのは、完全予約制のホールショートケーキの専門店「crèam fraise génoise」。店主は、日本人パティシエールとして初めてフランス共和国農事功労章「シュヴァリエ」を受勲した関口倭代さん。
そんな関口さん自身が、生地作りからトッピングまで全工程を手がけ、予約時間に合わせて1台ずつケーキを作ります。「生クリーム、生地、フルーツなど、すべてに厳選した素材を使っていることが伝わる味わい。こだわりを結集させたような、関口さんの心意気を感じます」



卵・バター・小麦粉・砂糖のみで作る生地、きめ細やかで濃厚な生クリーム、農家直送の旬のフルーツがたっぷりのショートケーキは、2段重ねの生地の間にもフルーツがぎっしり。特別な日の逸品にぴったりです。


銀座4丁目の名店

ぎんざ鮨一代 有吾
TEL. 03(6228)4593
住所/東京都中央区銀座4-14-15サントル銀座四丁目101
営業時間/午後12時―午後2時 午後5時30分―午後10時(午後8時最終入店)
定休日/水・日・祝(月が振替休日の場合は水営業。そのほか連休の際は変動あり)
アクセス/東銀座駅よりすぐ
ぎんざ鮨一代 有吾HP
4丁目「ぎんざ鮨一代 有吾」からバトン受け取る名店は6丁目の「Bar三石」です
「Bar三石」は数寄屋橋通り沿いのビル4階にあるオーセンティックなバー。名店で経験を積んだ三石剛志さんが2009年に開店しました。「オーナーバーテンダーの三石さんは、実は僕のゴルフ仲間。カクテルのコンテストで優勝するなど、実力者ですが、とても気さくで楽しい人方です」(阿部さん)
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/MIE NAKAMURA