銀座で営みを続ける「名店の若旦那・若女将」にナビゲーターとして登場していただき、銀座の街の魅力から長年紡いできたお店の歴史をインタビュー。若旦那・若女将がつながるお店・場所などもお聞きしたので、銀座街歩きも楽しんでみたい。第3回は、伝統を守りながら、時代のニーズに合わせた新しい挑戦を続ける「銀座もとじ」の2代目・泉二啓太(もとじけいた)さんにお話をお伺いします。

若旦那

銀座もとじ
2代目
泉二啓太さん

PROFILE

1984年渋谷区生まれ。ロンドンの大学でファッションを学ぶなど6年間の海外生活を経て帰国。2009年、株式会社「銀座もとじ」へ入社、2022年に代表取締役社長就任。2025年6月27日~7月14日まで、四谷の複合文化施設「Mikke Gallery」で特別展を開催予定

Instagram:@keitamotoji

海外生活で日本のファッション文化の高さを実感

三原通り沿いの4丁目に女性のきもの専門店「和織・和染」を、3丁目に「銀座もとじ 男のきもの」の2店舗を展開する呉服屋「銀座もとじ」。人間国宝による作品や重要無形文化財をはじめ、日本全国から集めた選りすぐりの着物や帯(染織品)を通して、日本の手仕事の魅力を紹介しています。

初代の泉二弘明氏は、鹿児島県奄美大島からマラソン選手を夢見て上京しましたが、腰を痛めて断念。母が持たせてくれた父の形見の大島紬を羽織ってみたところ不思議と力がわいてきて、「スポーツで果たせなかった夢を着物で果たそう」と奮起。ちり紙交換などで資金を貯め、1979年に銀座で創業しました。

現在、店を切り盛りするのは2代目の泉二啓太さん。高校卒業後、ロンドンの大学でファッションを学んだ後、パリへ渡り、「日本の独自性やファッション文化の高さを実感」。6年間の海外生活を経て、2008年に帰国。アパレルブランドに就職が決まっていましたが、初代が一時体を崩したことで、父から早く仕事を学ばなければと、2009年に「銀座もとじ」に入社を決意。2022年に代表取締役社長に就任しました。

一枚の着物に想いを寄せてもらえるか?がテーマ

まず訪れたのは、「納屋」と「IT」をデザインコンセプトに2006年リニューアルした、女性のきもの専門店「和織・和染」。木製の自動扉を開けると大島紬の織り機が目に飛び込んできます。

精緻な絣模様と言われる大島紬も、生産量の減少が著しいのが現状。「先代の故郷である大島紬の火を絶やしてはならないとの思いから、2017年にスタートしたのが『銀座生まれの大島紬』。単に着物を仕立てるだけでなく、織り上げた反物を機から切り離す『織り上げ式』に織り子との共同作業を行ったり…。さらに奄美大島への“旅”という体験を重ね、大島紬関連施設訪問や現地での染体験などをすることで、一枚への愛着を深めるはずです」

販売価格は仕立て代、奄美大島往復航空券(1名分)を含め55万円(写真の商品の場合と、着物としては手にとりやすい設定で、誰でも体験できるようにという想いが込められています。

着物の背景にある物語を伝える職人でありたい

初代の父からの言葉は、着物(反物)の背景にあるストーリーをしっかり伝えられる職人であること。

「作り手と着る方々を繋げるのが僕たちの役割。そのために、産地に足を運び、自分の目で見て、耳で聞くことが大切なんです」

ほかの呉服屋がやらないことを実践し、業界に革新をもたらしてきた「銀座もとじ」。病院のカルテにように『着物カルテ』を作成し、お客さんが購入した商品や家族構成などを写真と共に記録。反物価格には仕立て代込みの価格を明記しています。

「敷居は下げたくないけど、広げたい。10代や20代の方には、初めてバーに行った時のような、ドキドキ感とワクワク感のある店であればと」

“一本の糸からのものづくり”にも挑戦

農林水産省から依頼を受け、プロデューサーとして養蚕農家とともに製品づくりに取り組んでいるのが、世界初、オスだけの純国産の新蚕品種「プラチナボーイ」。「作り手に光をあてる」活動の集大成として、2015年に啓太さんが中心となりスタートしたのが「プラチナボーイ物語」です。

「自ら餌やりした蚕たちの繭が糸になり、生地に織り上げられるまでの1年間、感動と共に体験できる参加型のブランドです。世界にひとつだけの反物が完成した時には、制作過程を記したアルバムと共にお渡しします。白い反物に頬ずりするお客様の様子を目にしたときには感動も。3世代に受け継ぐことができるのも着物の魅力です」

ほかにも、啓太さんの母校でもある銀座の泰明小学校にて銀座の柳を使った「銀座の柳染め課外授業」など、日本の着物文化を若い世代や海外にも広げる活動を、銀座を拠点に行っています。

商品の企画・開発から手掛ける「男のきもの専門店」

次に案内してもらったのが、「和織・和染」から徒歩1分にある「銀座もとじ 男のきもの」。日本初の男性専門の着物店として、2002年にオープンしました。

初心者の方にも着やすいベーシックな一枚から、卓越した技術と感性に唸る逸品まで、究極のお洒落を実現できるアイテムをラインナップ。

「全国の作家・産地とのコラボレーションによるオリジナルのものづくりに力を入れています。ファッション感覚で楽しんでいただける和の装いを提案しています」


若旦那・泉二啓太さんとつながる銀座さんぽ

「新旧の個人店がバランスよく共存しているのが銀座の特徴。審美眼のある人々が集う街なので学ぶことも多いんです。喫茶店やバー、ギャラリーや書店など個性豊かなお店は店主も魅力的な方ばかり。路地裏を巡るのが楽しみのひとつです」

ビートルズファンの聖地としても知られる喫茶店「樹の花」

1979年に歌舞伎座の裏手、木挽町に創業。オープン4日目にジョン・レノンとオノ・ヨーコ夫妻が来店したる名喫茶。ハンドドリップで淹れるオリジナルブレンドのコーヒーや、シナモントーストやカレーなど愛情たっぷりの食事メニューも評判です。

「仕事の合間、落ち着いた時間を過ごしたいときに訪れる1軒。鉄板メニューは、ふんわりサクサクのシナモントースト。2階の窓から街並みを眺めながら、はちみつをたっぷりかけて味わうのが至福の時間です」(泉二さん)

〈喫茶〉FIor de cafe 樹の花

TEL.03(3543)5280
住所/東京都中央区銀座4-13-1 飯沼ビル2階
営業時間/午前11時30分~午後6時30分(18時LO) ※日・祝は正午12時~午後5時30分(午後5時LO)
定休日/木・年末年始
アクセス/東銀座駅より徒歩3分

非日常へと誘ってくれるの路地裏のバー「あるぷ」

1976年創業の老舗バー居酒屋。1階は8席のカウンター席、2階はソファー席を設えた洋室が広がる。クラシックなシャンデリアをはじめとした調度の数々、藤城清治による影絵ガラス壁画など、お酒を片手に異空間でひとときが過ごせます。

「銀座の路地裏で隠れ家的な店。表からは想像できない内装のカッコよさ、フォトジェニックな佇まいに魅了されます。ウイスキーも多数ありますが、定番はハイボール。和食やラムチョップなど、日替わりのお通しも毎回楽しみです」(泉二さん)

〈バー居酒屋〉あるぷ

TEL 03(3571)6464
住所/東京都中央区銀座8-7-5
営業時間/午後6時~午後11時30分(午後11時LO)
定休日/土・日・祝
アクセス/新橋駅より徒歩4分

今回訪ねた老舗

銀座もとじ 和織・和染(女性のきもの専門店)

TEL.03(3538)7878(和織)、03(3535)3888(和染)
住所/東京都中央区銀座4-8-12
営業時間/午前11時~午後7時
定休日/なし(年末年始除く)
アクセス/銀座駅より徒歩1分

銀座もとじ 男のきもの
TEL. 03(5524)7472
住所/東京都中央区銀座3-8-15
営業時間/午前11時~午後7時
定休日/なし(年末年始除く)
アクセス/銀座駅より徒歩2分
銀座もとじHP

PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/NAOMI TERAKAWA