さまざまな“〇〇のプロ”が登場し、銀座の名店をナビゲートするこちらの企画。今回は、ドラマ『名建築で昼食を』の原案となった『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)などの著書を持つ文筆家・甲斐みのりさんが銀座の歴史ある名建築をご案内します。

Vol.3 甲斐みのりさんの建築案内

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文筆家
甲斐みのりさん

プロフィール

旅、散歩、お菓子、地元パン、手みやげ、クラシックホテルや建築、雑貨や暮らしなどを主な題材に、書籍、雑誌、webなどに執筆。食・店・風景・人、その土地ならではの魅力を再発見するのが得意。著書は『すきノート」のつくりかた』(PHP研究所)、『歩いて、食べる 東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)ほか多数 
Instagram:@minori_loule

“銀座”の印象やおすすめの歩き方は?

銀座は建築のデパートのような街

新旧さまざまな建築が同じ通りにあり、しかも密集しているのが銀座。買い物やお食事などを目的に銀座へ足を運ぶ人も多いと思いますが、目的地に向かって歩くだけでなく、たまには目線を上げて歩くと面白い発見があります。

「ハイブランドの前衛的なデザインのビル、近代にできたレトロなビル、バブル期にできたビルとあらゆる時代の建築があり、その対比が面白く、まるで建築のデパートのような街が銀座です」(甲斐さん)

建築プラスαの体験ができるスポットがおすすめ

「建築を眺めながら街を歩くと、上へ下へと視界が広がります。建物の正面だけでなく、裏側から見るのもいいですね。看板、窓枠、窓ガラス、ドアノブ、ステンドグラス、照明、タイルなど細部に目を移してみると、建築当時の時代を感じられてとても楽しいですよ。

食事やお茶、アート鑑賞など、建築にプラスして楽しめる体験ができるところに行くのがおすすめです。滞在時間が長くなり、座ったり立ったりしながらいろんな視点で建築を見ることができるのもいいですよ」(甲斐さん)

一歩入ると異世界が広がる、現存する日本最古のビアホール

百貨店、ブランドショップ、飲食店立ち並ぶ銀座のメインストリートともいえるにぎやかな銀座通り。この通りから店内に一歩足を踏み入れると、銀座とは思えない重厚感のあるレトロな空間が広がるのが、1934(昭和9)年に大日本麦酒のビアホールとして竣工した、現在の「ビヤホールライオン銀座七丁目店」です。

「東京大空襲の戦火を逃れ、戦後は接収された進駐軍専用のビアホールとなり、その後一般の人も使えるようになりました。あらゆる時代を乗り越えた現存する奇跡の空間ともいえます」(甲斐さん)

建築家・菅原栄蔵氏が「豊穣と収穫」をコンセプトに設計し、いまでも内装はほとんどが創建当時のまま。赤いレンガの壁、収穫風景のガラスモザイク壁画、ビールの原料となる大麦を表現した柱、泡をイメージした照明など、細部にまでこだわって作られています。

ビールをもとにした物語を感じられる空間の中で、ビールと料理を気軽に味わえるのもここならではのお楽しみです。

「地方から友達がきたり、仕事仲間を案内したりするときはまずこちらに案内します。年齢問わず楽しめて、古きよき時代をしのぶことができる空間でビールを飲むのが幸せなんですよね。


あまり知られていないかもしれませんが、実は食事が充実しているのもここの特徴です。アルコールが飲めなくても、お昼の時間帯など食事を目的に訪れてもこの空間を楽しめます」(甲斐さん)

DATA

ビヤホールライオン銀座七丁目店
電話番号/03(3571)2590
住所/東京都中央区銀座7-9-20 銀座ライオンビル 1F
営業時間/午前11:30~午後10:00 金・土・祝前日〜午後10:30
定休日/なし
アクセス/東京メトロ丸ノ内線、日比谷線「銀座駅」A4出口より徒歩3分

見た目はひとつのビル、実は2つのビル!?

銀座通りから見るとひとつのビルに見えるけれど、階数の異なる2つのビルが一体になっている、よくみると不思議な構造の「教文館」。

1885(明治18)年に創業した老舗の書店で、現在のビルになったのは1933(昭和8)年のこと。帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライトのもとで学んだアントニン・レーモンドによって建築されました。絵本コーナーが充実しているほか、もともとがキリスト教の出版社・書店のため、現在もキリスト教関連の本やグッズが豊富に揃います。

「母がキリスト教徒だったことで、教文館には子どもの頃から連れてきてもらっていました。

でもここが面白い建築と気づいたのは大人になってからのこと。松屋通り側にビルの入口があるのですが見上げると高さの違うビルが! なんと2つのビルになっていたのです。

入ってみると、階段がふたつ並んでいるのも驚きでした。エントランスやエレベーターホールは当時のまま。大理石を使った瀟洒な作りに印象深い建物です」(甲斐さん)

「4階にカフェがあるのですが、ここには十字架のアイアンワークが施されていて、内装がとてもかわいいです。

銀座とは思えない静寂した雰囲気を味わえ、銀座通りをみながらケーキとコーヒーを味わってぼーっと過ごすのも幸せのひとときです」(甲斐さん)

DATA

教文館

電話番号/03(3561)8446
住所/東京都中央区銀座4-5-1
営業時間/午前10:00〜午後7:00 ※4階CAFÉ きょうぶんかん午前11:00~午後6:30
定休日/元旦
アクセス/東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」C8より徒歩3分

解体の危機を免れ、銀座の歴史を刻むビンテージなビル

同じ銀座でも松屋銀座をはじめ、百貨店や高級ブランド立ち並ぶ銀座通りと、歌舞伎座のある昭和通りとでは少し趣が異なります。にぎやかな銀座通りに対して、昭和通りはまだ古い建築物も所々みかけることも。その中のひとつが、93年前、関東大震災の復興建築として竣工したのが旧宮脇ビルで、現在はその一部が「MUSEE GINZA ギャラリー」となっています。

「戦時中の東京大空襲、経済成長期の建設ラッシュを乗り越えた貴重なビルを見ると、時が止まったような不思議な感覚になります。しかしながら藤本壮介さん設計の高層ビルにする計画を進めていたこともあったそうです。それを解体直前にオーナーが思いとどまり、急遽保存に舵をとり、美しいアートギャラリーをオープン。オーナーの心意気を感じます」(甲斐さん)

歴史を刻むモダニズム建築と現代アートが共存するギャラリーは、建築、デザイン好きにはたまらに展示物がたくさん。

19世紀末ウィーンで隆盛した歴史絵画や伝統芸術からの分離をめざした「セセッション」。当時の貴重なガラス器や銀器、布製品などで紹介。建築保存のためにスタートしたギャラリーらしく、オーナー一家と交流があった磯崎新、伝説の前衛美術集団、ネオ・ダダの風倉匠、現役ではブラッシュストロークで有名な山口歴のコレクション作品が所せましと展示され、濃密なアートタイムを楽しめます。

建築や都市をテーマにした企画展も随時開催するそうで、この日は銀座の変遷がわかる古絵葉書も展示されていました。



「外壁は、釉薬のかかったスクラッチタイルで、加飾が施された特注品なのだそうです。近代建築でよく見かける引っ掻いた模様ではなく、表面がぼこぼこ。階段を上がった踊り場の鉄窓は、2年前、石膏を取り精巧に再現していて、色味もルックスがかわいい。もっと見てみたいと階段を上ると突き当りは壁で、ギャラリースペースはここまで。限られた空間をうまく利用していて、レトロとアートが融合した素敵なビルです」(甲斐さん)

DATA

MUSEE GINZA_KawasakiBrandDesign

住所/東京都中央区 銀座1-20-17 川崎ブランドデザインビルヂング
営業時間/金〜日午後1:30~午後3:00※アポイント優先
定休日/月~木
アクセス/東京メトロ有楽町線「銀座一丁目」10番出口より徒歩3分

PHOTO/NORIKO YONEYAMA TEXT/MIE MINEZAWA