毎年3月に東京で開催される「Tokyo Creative Salon2025」。このイベントに連動して、松屋銀座では3月12日(水)から地域共創プロジェクトの一環として、国産デニムをテーマに商品やイベントを展開します。注目は、今回初お披露目となる英国「リバティ・ファブリックス(LIBERTY FABRICS)」と広島県の福山デニムのコラボレーション。産地の福山市を訪ね、このユニークなデニムに込められた想いを伺いました。
ものづくり地域に光を当てる松屋と福山デニムとの出会い


松屋では、2020年から「地域共創プロジェクト」に取り組んでいます。日本の伝統的なものづくりを続ける地域と“デザインの松屋”がコラボレーションした店内装飾やショーウィンドウを展開。その装飾物を他社にも貸与することで、さらに地域の認知度を高めるとともに、SDGs(持続可能な開発目標)の実現にもつなげています。同時に、日本各地の伝統工芸・産業・文化の発掘も積極的に行っています。
そんな松屋が、広島県福山市のデニム事業者グループ「デニムのイトグチ」と出会ったのは昨年のこと。「Tokyo Creative Salon(TCS)」の企画構想のために、松屋銀座のバイヤーが福山市を訪問。彼らの案内で福山デニム関連企業を視察する中で出合ったのが、「山陽染工」と「リバティ・ファブリックス」のコラボプロジェクトだったのです。
独自の染色の技術を世界に誇る「山陽染工」
広島県福山市は、日本一のデニム産地であることをご存知でしょうか? 近年、海外でも人気が高まるジャパンデニムですが、実はその約8割を生産しているのが福山市なのです。
福山市の繊維業のはじまりは約400年前にさかのぼります。江戸時代、藩主により綿栽培が奨励され、日本三大絣に数えられる「備後絣」が誕生。福山デニムは、その伝統で培われた技術を背景に発展しました。
また紡績、染色、織布、加工、縫製、洗いというデニム生産の全工程を分業制で手がける企業が揃い、それぞれの技術が高いこともこの地の特徴です。
そんな福山市で、大正14(1925)年から続く染色加工会社が「山陽染工」です。

大正時代は手織りで柄を表現していた備後絣を、藍染の生地から柄を白く抜く「抜染(ばっせん)」加工を開発。約100年前に生まれたこの特許技術は現在も高い評価を得ています。
「他社といっそうの差別化を図りこの抜染技術を進化させたいと考えていたところ、『リバティ・ファブリックス』さんから“リバティパターンをデニムに抜染で表現したい”とのご依頼をいただいたのです」と「山陽染工」常務の戸板一平さん。

そこで同社では2014年、さらに高度な抜染技術「段落ち抜染」を新開発。インディゴ染のデニム生地から濃淡をつけて色を抜くことで、奥行きのある繊細な表現が可能となりました。
世界に類を見ないこの独自の技術は、欧米のラグジュアリーブランドにも採用されています。
「段落ち抜染」を行う福山市の工場を訪ねました

福山市「山陽染工」の工場で、段落ち抜染の作業を見せていただきました。
まず驚いたのは工場の広さ! 東京ドームより広い敷地だそうで、染色工場と聞いてイメージしていた規模をはるかに超えます。段落ち抜染を行うロータリー捺染機も巨大でした。

段落ち抜染は、インディゴ染めの生地に色を抜くための抜染剤をプリントします。同時に着色することも可能なのだそう。 柄が彫られたロールの中から抜染剤が柄の形に染み出します。それを回転させて、下を通る布にプリントしていくという仕組みです。

柄に濃淡を付けるため、同じ型のロールを複数本使います。この日は3段階の濃さの抜染剤と、黒い輪郭線、計4本のロールを使用。

「各ローラーの回転には微細な差があるので、放っておくと柄がずれてしまう。そのほんのわずかなずれを、職人が目視し手作業で修正しています」(戸板さん)
通常のプリントでも柄合わせは難しいですが、抜染剤はすべて同じ色のためいっそう困難なのだそう。
「プリント後に蒸して抜染剤を洗い流すまで、柄がきちんと合っているかわからないので、リスクも高くて」と戸板さん。100年に及ぶ抜染の伝統と職人技があればこそなせる、独自の技術です。

高度な技術で繊細なリバティパターンをデニムに
昨年のこと。「山陽染工」では2025年に福山市で開かれる「世界バラ会議」に向けて、バラ柄のデニム生地を開発することになりました。
「10年前、段落ち抜染開発のきっかけをいただいた『リバティ・ファブリックス』さんに、もう一度、今度はバラ柄のデニム生地を作らせていただけませんかとご提案したのです」(戸板さん)
そうして両社のコラボレーションが再び実現。このプロジェクトに、地域共創に取り組む松屋銀座も共感したことから、今回のイベント「Tokyo Creative Salon2025〜つなぐ・つながる・日本の春〜」で、いち早くお披露目することになりました。
今回のコラボレーションでは、「リバティ・ファブリックス」の約5万点のアーカイブの中から3つのバラ柄をセレクト。



綿100%のデニム生地に加え、温度調節機能のあるアウトラスト糸を織り込んだ薄手のデニム生地も用意。プリントと異なり染料がはがれないため、使うほどに色落ちするデニム独特の味わいが楽しめます。
松屋銀座が企画開発した「ミニランチバッグ」(2柄、各5280円)のほか、「トートバッグ」(1柄、4180円)、「アウトラストデニムワンピース」(3柄、各3万5200円)を展開。3月19日から25日まで5階プロモーションスペースで開催される「FUKUYAMA MONO SHOP」ポップアップショップで販売されます。
福山デニムを未来につないでいくために

約40のデニム関連企業がある福山市。技術力を誇る作り手は「山陽染工」だけではありません。中でも「カイハラ」は、国内の約50%ものデニムのシェアを誇る企業です。
1893年に創業し、1970年に日本初のロープ染色機(糸の芯まで染まり切らずデニム独特の色落ちが可能な染色)を開発。日本では希少なデニム生地の一貫生産体制を確立し、海外にもデニムを輸出する世界的メーカーです。
伝統や高い技術力、日本一の生産量を誇りながら、その認知度はまだ十分とはいいがたい福山デニム。産地全体でその魅力を伝えようと立ち上がったのが、「カイハラ」「山陽染工」「篠原テキスタイル」などの若手社員です。
「福山デニムは分業制が多いので、一社だけでは存続できない。企業の垣根を超え産地全体でアピールしていこうと、有志が集まり2023年に結成したのが『デニムのイトグチ』です」と、立ち上げメンバーの一人、「山陽染工」の湯浅遼太さん。
さまざまな工場をバスで巡る産地ツアーの運営や、イベントへの出店、講演や出前授業、産地内でのつながりを深める交流会などの活動を通して、福山デニムの魅力を発信しています。


湯浅さんも、メンバーの一人である「カイハラ」の齊藤丈将さんも、デニムに惹かれて福山に移住してきた若い世代です。
「デニムが大好きで、大阪から就職して福山に来ましたが、他地域から来ている人は少なくて。福山にしかない技術も多く、デニム好きな人にはやりがいのある仕事も多いので、もっと福山を知ってもらえたら」と齊藤さん。

ゆくゆくは、福山でデニムの大規模な展示会を開催するのが「デニムのイトグチ」の目標です。
「国内外で展示会はありますが、産地で開催するからこそ生産現場もご紹介できますよね。プロだけではなく、一般の人も学生も参加できるようにして、福山のものづくりの魅力について多くの人に伝え、産地の存続につなげたいです」(湯浅さん)
松屋銀座のTCSイベントでは、「デニムのイトグチ」による国産デニムの事前予約制ワークショップや、無料で楽しめるラリーゲームも3月22日(土)・23日(日)に開催。ぜひご注目ください。
福山デニム×リバティのお披露目は・・


「Tokyo Creative Salon 2025 ~つなぐ・つながる・日本の春~」
“メイドインジャパンデニム”をフィーチャーし、ショーウィンドウには、広島県「山陽染工」によって製作された“リバティパターンのデニム”とともに、岡山県「青木被服」による“デニムローズ”を展示。ポップアップショップ〈FUKUYAMA MONO SHOP〉ではリバティパターンのデニムを使ったワンピースやトートバッグの販売も。「デニムのイトグチ」のワークショップ(要予約)など多彩な内容です。
期間/3月12日(水)~25日(火) ※〈FUKUYAMA MONO SHOP〉は19日(水)~
場所/松屋銀座ショーウィンドウほか
PHOTO/RYUMON KAGIOKA TEXT/MIYO YOSHINAGA