銀座で営みを続ける「名店の若旦那・若女将」がナビゲーターとして登場していただき、銀座の街の魅力から長年紡いできたお店の歴史、お気に入りのお店・場所までインタビュー。第2回は、お客さんとのコミュニケーションを大切に、伝統ある洋食店「銀座 みかわや」を守る、4代目・渡仲晋平さんにお話をお伺いします。

若旦那
銀座 みかわや
4代目
渡仲晋平さん
PROFILE
1981年に生まれてから、実家のある横浜育ち。食品関連の企業に勤務した後、33歳で退職し、2016年、株式会社三河屋(銀座 みかわや)に入社。父のあとを継いで4代目としてお店での接客から運営まで携わり、2024年に代表取締役に就任
伝統を守り、変えない努力を続ける銀座の老舗
祖父が始めた店を絶やしてはならない、という思いから
洋館風の重厚な佇まい目を引く、銀座4丁目の名店「銀座 みかわや」。創業者の保坂芳次郎氏が、明治20(1887)年、現在の銀座通りにある「和光」の隣りに「三河屋食料品店」を開業したのが始まり。その姿は浮世絵師・四代目広重の「銀座繁昌之図」の中にも描かれています。
終戦の混乱の中で先代より「三河屋食料品店」の看板を受け継いだのは、渡仲豊一郎氏。フランス料理の真髄を日本に伝えた、横浜の「ホテルニューグランド」の初代料理長であるS・ワイル氏から、フランス料理の“技と心”を直伝された数名の中のひとりです。

「独立を考えていた祖父が、知り合いの地主さんから銀座の土地を紹介してもらったのがご縁で。空襲で焼け野原になったこの土地に1948年、コロッケなどの惣菜屋から始めて、1950年に『フランス料理 みかわや』を開業し、今も続く看板商品のグラタンを一世風靡させました」と語る、豊一郎氏の孫で4代目店主の渡仲晋平さん。

「老朽化した本店の建て替え後、当時の店主だった2代目の叔父が体調を崩して一線を退き、仕込み場の長だった父が3代目になったんです。そして父が将来を考え始めた頃、サラリーマンだった私に、想定していなかった後継ぎの相談が何度かあって断っていると、『店を畳むか…』と。とても可愛がってもらった祖父の店を絶やしてはならない、という思いから4代目としてお店を引き継ぐ決意をしました」
ゲストのわがままに応えることが「みかわや」の流儀
「みかわや」で大切に受け継がれていることのひとつに「できる限りゲストの要望に応えること」があります。
「メニューに載ってないものでも、材料次第で対応しています。洋食店ですが、お箸のご用意はもちろん、ご飯に合う漬物や食後の緑茶などリクエストいただいたことも」

「また常連の方は、私たち以上にお店の味を敏感に感じておられます。味が少しでも変わっていたら、すぐに気づいてくださるんです。そのときは、『いつもとどう違いますか?』とお聞きします。声をかけてくださるのは、お客様との信頼関係が築けているからこそ。伝統の味を守り続けられるのも、お客様がいらしてこそなんです」
そういう渡仲さんだからこそ、お店を営む上でスタッフ間の関係性は特に大切にしているそうです。「上下関係にとらわれず、“同じ志を持つ仲間”という意識を持って、スタッフが楽しく働いているとお店の雰囲気も良くなり、お客様のご要望も受け取りやすくなりますから」。一見敷居が高そうなお店に思えますが、店内に一歩入るとスタッフの笑顔にほっとでき、気軽に声をかけあえるアットホームな雰囲気が漂うのも「みかわや」ならではの伝統のひとつといえるでしょう。


75年愛される伝統の味、変えない努力を惜しまず
赤い絨毯が敷かれた螺旋階段やアンティークの家具や調度品など、西洋文化の香り漂う非日常空間でいただけるのは、“日本のフランス料理”を継承した「洋食」。初代・渡仲豊一郎氏が創出したメニューを変えない努力を続けており、効率を重視する現代にはそぐわないほどの手間をかけ、継承してきた技術と真心で作り上げる本物の洋食がここにはあります。
「みかわや」の歴史に欠かせないメニューと言えば、「芝海老のグラタン」です。「開業時、日本でフランス料理が定着してなかった時代ということもあって、お客さんが少なく苦しいときもありました。そんなときに新聞の記事でうちの看板商品のグラタンが紹介されて大人気に。これをきっかけに『銀座 みかわや』とフランス料理が知られるようになったそうです」
「このグラタンは、ドリア発祥と伝わる『ホテルニューグランド』の1品を原型としているため、名前はグラタンですが、実はペンネではなく少量のバターライスを使用したグラタンなんです」


テーブルに運ばれてきたアツアツのグラタンからは、チーズやバターの香りが漂い、胃袋を刺激します。口に入れれば、たっぷり入った芝海老のプリプリ食感、濃厚かつ優しい味わいのベシャメルソース、舌触りのよいバターライスのハーモニーがたまりません。
今回は、グラタンのほかに、常連客に人気のメニューを渡仲さんにおすすめしてもらいました。

「黒毛和牛を贅沢に使った「ビーフシチュー」も長年、常連客に愛されるメニューです。デミグラスソースは、2~3週間かけて丁寧に作ることで、深いコクとうまみを引き出しています。量感のある牛肉もじっくり煮込んでいるので、口の中でほろりとほぐれるほど柔らかいんですよ」

「もうひとつの人気メニューは『かにクロケット』ですね。優しく品のあるタバラガニをふんだんに使っているのが特徴です。自家製ベシャメルソースとのバランスが絶妙で、カニのうまみがしっかり味えます」
子どもの頃、鉄道が趣味だった渡仲少年。6~8歳の頃、毎年8月に「松屋銀座」の催事場で行われていた模型ショーが楽しみで、祖父からお小遣いをもらい横浜から通っていたそう。そんなゆかりある「松屋銀座」との地下2階の冷凍商品コーナー「ギンザ フローズン グルメ」には、この「かにクロケット」も並んでいます。「コロナ禍に声をかけていただいて…。冷凍食品は初の試みでしたが、急速冷凍によりお店の味に限りなく近い味にすることができました。ぜひご家庭で味わってみてください」
若旦那・渡仲さんとつながる銀座さんぽ

「東銀座エリアは個人店が多く、老舗など地域に根付く料理店から新しいお店まで、店主さんたちのこだわりを感じる、おいしいお店がたくさんあります。なので、銀座で外食するときは、店から歩いてすぐ行ける距離の2丁目、3丁目界隈で楽しむことがほとんど。僕の元気の源にもなっています」
明治時代から愛される和菓子の名店「空也」

明治17(1884)年に上野で創業し、昭和24(1949)年から銀座6丁目の並木通りで営む名店。上品な甘みの自家製餡とパリッと香ばしい皮とのバランスがたまらない「空也もなか」のほか、常時6種類の季節の生菓子を用意しています。
「手土産によく利用している1軒です。名物の空也もなかは、賞味期限1週間と日持ちがよいのが魅力。夏目漱石の『吾輩は猫である』にも登場する空也餅や季節の梅の花を模した練切など、季節の和菓子の詰め合わせもとても喜ばれます」(渡仲さん)
〈和菓子〉空也

TEL.03(3571)3304
住所/東京都中央区銀座6-7-19
営業時間/午前10時~午後5時(土曜~午後4時)
定休日/日曜・祝日
アクセス/銀座駅より徒歩2分
空也 HP
空が青く感じられる銀座のオアシス「水谷橋公園」

保育園の入る建物の4階にあたる屋上を一般開放している公園。再生木のウッドデッキやベンチ、テーブルカウンター、芝生広場や4階部分に位置するウッドデッキと芝生広場があり、小さいながらも開放感は抜群。
「周囲を壁に囲まれていますが、芝生が敷かれていたり、多様な植物が植えられていたりと、都会のオアシスを凝縮した公園です。ちょっと一息つきながら見上げた空は、他所より青く感じます」(渡仲さん)
〈公園〉中央区立 水谷橋公園

TEL.03(3546)5435(中央区環境土木部水とみどりの課)
住所/東京都中央区銀座1-12-6
開園時間/午前7時~午後9時
閉園日/なし
閉園日/なし
アクセス/京橋駅より徒歩4分、銀座駅より徒歩10分
今回訪ねた老舗

銀座 みかわや
TEL.03(3561)2006
住所/東京都中央区銀座4-7-12銀座三越新館1F
営業時間/午前11時~午後9時
定休日/なし(年末年始除く)
アクセス/銀座駅より徒歩2分
銀座 みかわや HP
INFORMATION_松屋銀座のギンザ フローズン グルメ
PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/NAOMI TERAKAWA