松屋銀座100周年のアニバーサリーイヤーが、いよいよ2026年2月末でゴールを迎えます。ラストを飾る100本目の本記事では、古屋毅彦社長がこの一年間を振り返り、漢字一文字で表現。この記念すべき節目を越え、松屋銀座が目指してゆくさらなる未来についても語りました。

INTERVIEW

松屋 代表取締役
社長執行役員
古屋 毅彦さん

PROFILE

1973年生まれ。東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)の勤務を経て2001年松屋入社。08年米国コロンビア大学国際関係・公共政策大学院修士課程修了。23年3月から現職。社内部活動ではサッカー部に所属

「多彩なチャレンジによる実り多い一年間でした」

──この100周年は、松屋銀座にとってどんな一年になったでしょう。

世の中ではさまざまなことがありましたが、松屋としては総じてとてもいい一年になりました。チームワークを活かして多彩なチャレンジもでき、売り上げとしても実りが多く、100周年の節目にふさわしい一年間にできたと思います。

──どんな成果が印象に残っていますか?

銀座とのつながりを強化できたことですね。例えば〈銀座木村家〉さんと銀座の名店のコラボコッペパンの企画は、食品部バイヤーや売場の社員が銀座の各店の方々と一緒に取り組んだもの。さまざまな企画を通して現場の若手も含めた幅広い社員が地域の方々とのつながりを増やし、銀座とのつながりに厚みが生まれました。これは松屋にとっての進化になったと思います。

小売業にとって100周年は商機でもありますよね。100周年記念の冠があることで、これまでできなかったことも実現できた。牛めしの〈松屋〉さんとのコラボもですが、オリジナルのスーベニアグッズもその一例です。海外百貨店のグッズが人気なので絶対にニーズがあるとは以前から思っていたんですが、100周年は絶好の機会でした。実際に手応えがあったので、続けたいと考えています。100周年という名のもとで社員みんなが多彩な企画に挑戦してくれたことが、なによりの成果です。

──楽しい企画がたくさんありましたね。

印象的なのは牛めしの〈松屋〉さんとのコラボですね。以前から牛めしの〈松屋〉さんを好きだったこともあり、反響もよく嬉しいコラボでした。

「閉店後のお化け屋敷ミッション」も楽しかった。“お客さまを驚かせていいのか”と若干迷いがあったのでリハーサル時点ではあまり怖くなかったんですよね。それがみんな悔しくて、“せっかくやるなら本気で驚かせて怖がっていただかないと”と思って、だからこそ本番が盛り上がったと聞いています。

「Tsu-tsu-mu展」のようなアカデミックな企画も“デザインの松屋”ならではですし、さまざまな部活動もよかったです。現場の社員たちを中心に、これまでにはなかったような企画や動きが生まれたことがすばらしいですね。

──数々の楽しい企画が、『松屋の個性』の認知を広げる機会にもなったのでは。

そうですね。松屋の存在意義は、ほかにはない独自の“松屋らしさ”があること。ほかでは実施しないような思い切った企画も価値が見出せれば挑戦してこそ“松屋らしさ”だし、ユニークな企画を通して“松屋らしさ”の発信もできました。

──社員の皆さんのキャラクターについて、実感したことはありましたか?

百貨店で働く人は、コミュニケーション好きなんですよね。お客さまや商品を作る方々など、人と話すのがみんなやはり好きなんだと改めて感じました。そして真面目で、人がいい。お祭り好きも多いですね。イベントの行列に燃える社員にとって、100周年はアドレナリンの出る一年だったと思います(笑)。

魅力的な皆さんに支えられている松屋銀座。古屋社長の趣味嗜好についても聞きました

──人が好きで発想力豊かなメンバーが多いのですね。今日は古屋社長のお人柄についてもご紹介したいです。プライベートでお好きなものはなんですか?

サッカーですね。時間があまり取れませんが、見るのもやるのも好き。あとは歴史ものなどの読書も好きですが、子どもの頃からの漫画好きです。多忙ですが時間を見つけてはスマホで漫画を読んでいて、社内でも詳しい方だと思います。

──どんな漫画がお好きなんですか?

スポーツや歴史、冒険アクションなどの少年漫画ですね。『鬼滅の刃』も『進撃の巨人』も第1話からリアルタイムで読んでいました。

──それはすごいですね! 今注目の作品は?

近年のベストはJリーグのユースチームが舞台のサッカー漫画『アオアシ』(小林有吾)です。主人公の稀有な才能が適材適所で輝く描写もおもしろいですが、最も感動的なのは、若い世代には無限の可能性があると実感できること。やはり若い人には可能性を信じてほしいし、そう信じさせてくれる漫画だと思います。

ほかに読み応えがあったのは、連載中ですが『伴天連怪談(ばてれんかいだん)』(三木有)。『東島丹三郎は仮面ライダーになりたい』(柴田ヨクサル)もくだらないけどワクワクしますね。『葬送のフリーレン』(山田鐘人/アベツカサ)も好きで、社内報でおすすめしたりも。

──実生活で影響を受けた作品はありますか?

学生時代は陸上部で、高校ではキャプテンとして駅伝に取り組んでいました。大きな学校でもなくスポーツ推薦枠もなかったし、高校生はすぐケンカするし(笑)。そんな中でいかにチームをまとめて高い目標に向かっていくかを考えるのが好きでした。そのチームマネージメントに取り組んでいた当時、連載中だった『スラムダンク』(井上雄彦)に共感する場面が多かったですね。みんなが仲良しの必要はない、でも全員が同じ高い目標に向かっていればフィールド上では仲間になれる。それは仕事にも当てはまると思っています。

あとは昔の作品ですが、野球漫画『キャプテン』(ちばあきお)の谷口くん。強豪校の2軍補欠だったのに転校先で実力を期待され、陰の猛特訓で本当に力をつけてチームのキャプテンになっていくんです。一人の天才が突出するのではなく、チームで困難に立ち向かい、努力して逆境を克服する。そういうストーリーに共感しますね。

『スラムダンク』は主人公も相手も強いのがいい。自分が対戦するときは強い相手はイヤでしたが、仕事では困難な方がやる気が出るんですよ(笑)。だからコロナ禍も踏ん張りどころだと覚悟して、今まで手をつけられていなかったことに取り組み、停滞せずにいつも以上に懸命に仕事しましたね。

──古屋社長は『スラムダンク』でいえばどのタイプでしょう。

どうかなあ…。自分はスーパープレーヤーではないし、みんなの力を借りて、1の力の人が10人集まったときに12の力を発揮するためのマネージメントを考える方が好きですね。

──では好きなのはどのキャラクターですか?

いちばん好きなのは三井寿ですね。グレちゃったり、走れなくて反省したり、人間臭いんですよね。でもふらふらになりながらもシュートを決めて……いや、漫画の話だけで何時間でも話しちゃいますね。

100周年を漢字で表すと? そして101年目からの松屋銀座が目指すものとは

──古屋社長の今のチームメンバーである松屋社員は「松屋が大好き」という人が多い印象です。

ありがたいですよね。でも今後は内弁慶になりすぎないように、もっと外に出てほしいと思っています。キャリア採用の方も増えてはいますが、松屋は生え抜き社員が多く、ずっと銀座や浅草にしかいないと視野が狭くなるのではと懸念していて。

国内にも海外にも多彩なお店や企業があり、さまざまな人がいます。そういう広い世界を知ってもらいたい。経営計画に「世界中の人に行きたいと思ってもらえる『Global Destination』」を目標に掲げていますが、そのためにはもっと広い世界を見て、外部の人と交流することが必要です。ほかと比べなければ長所も短所もわかりません。広い世界に触れ視野が広がることで、松屋のチーム力はさらに強くなると思います。

──ありがとうございます。ではいよいよ、古屋社長にとっての100周年を漢字一文字で表現してください。

──「人」なのですね! どんな想いからでしょうか。

100周年はすばらしいアニバーサリーイヤーになりました。101周年以降も変わらず挑戦し続けることを誓う一方で、月並みにはなりますが、この一年間を通して実感したのは、松屋を支えてくださった「人」への感謝の想いです。

松屋は創業以来、戦争や災害などさまざまな困難を経て、たくさんの方々に助けられ、支えられてここまで続いてきました。100周年にあたって松屋の社史を読み直して歴史を再認識し、そのことを改めて感じたのです。

最も感謝するのはお客さま。スーベニアグッズを作るとき、我々は外国からのお客さまのお土産需要が多いだろうと思っていたのですが、発売初週に実際に買ってくださったのはほぼ日本のお客さまだったと聞いて。松屋を思ってくださるお客さまは我々が思うよりずっと多いんだと感激しました。思えばあのコロナ禍にも我々を支えてくださったのは、それまでつながってきたお客さまでした。

お客さまをはじめ、松屋とつながるすべての「人」へのありがたさを肌で感じる場面が、この一年間本当にたくさんありました。社員のみなさんもきっとそうだと思います。

改めて「人」への感謝を胸に、これからの100年に向けて決意を新たにするのは、“松屋らしさ”を失わず、未来につなげていくこと。銀座と浅草にしかない松屋は商店に近い部分があり、フレンドリーでアットホームなホスピタリティーが持ち味。それこそがほかにはない、“松屋らしさ”の要だと思っています。

──では最後に、お客さまへのメッセージをお願いします。

100周年を経て、松屋銀座はこれからの未来へ向けてさらに進化し、お客さまにもっと好きになっていただけるように努めていきます。ほかにないものに出会える場所として期待していただき、これからもぜひ、松屋銀座へ足をお運びください!

PHOTO/RYUMON KAGIOKA TEXT/MIYO YOSHINAGA