松屋銀座の地下2階の一角に、冷凍食品コーナーがあるのをご存知ですか?立派な箱に入った特別感のある冷凍食品の数々は、その名も「GINZA FROZEN GOURMET(ギンザ フローズン グルメ)」。銀座を中心とした老舗名店と松屋銀座がタッグを組み、“名店の味をそのまま家庭へ届ける”ことを目指した、松屋銀座オリジナルの冷凍ブランドです。今回は、立ち上げから参加いただいた〈銀座 日東コーナー 1948〉〈銀座みかわや〉〈銀座ピエス・モンテ〉〈銀座吉澤〉の皆様と座談会を開催し、ブランド誕生のきっかけや商品開発の秘話、さらに銀座への熱い思いをお聞きしました。

「GINZA FROZEN GOURMET(ギンザ フローズン グルメ)」とは?

銀座の名店の名物メニューのほか、全国の産地や港でとれた新鮮な特選素材を冷凍状態で全国にお届けする、松屋銀座が開発したオリジナルブランド。手間をかけずにご家庭で再現でき、お店と同じ味が楽しめます。取り扱うのは、和洋中惣菜やパン・ピザ類、麺・米飯、菓子アイス、ミールキットなど、約55ブランド、350種類。

きっかけはコロナ禍。「ギンザ フローズン グルメ」誕生の背景とは

――ギンザ フローズン グルメは、どのようなきっかけで立ち上がったんですか?

髙取さん:きっかけはコロナ禍でした。当時、食品売場に立っていると、「冷凍食品はないの?」というお客様からの声が度々あり、需要の高まりを感じていました。一部取り扱っていた冷凍食品はあったのですが、お客様が求めているものとは違い、外出できないコロナ禍だからこそお客様にもご家庭で優雅で贅沢なひとときを味わってもらえるのではないか、と思ったことがギンザ フローズン グルメ誕生のきっかけになります。

そこで、長くお付き合いのある銀座の老舗店さんにご協力いただきながら、新しい冷凍食品のブランドを立ち上げようと考えたのです。ブランド立ち上げから、今年の8月で丸3年を迎えました。

竹田さん:早いですね。もうそんなに経つんですか。

髙取さん:立ち上げ当時、私たちは冷凍食品に関するノウハウがまったくありませんでした。そこで、近隣の百貨店やスーパーに足を運びながら、松屋銀座としてどんな冷凍食品を体現できるかなと考えたんです。

ただ、既存の取引先だけでは、松屋銀座らしいものは作れないなと行き詰まっていたんです。そんなときに、銀座のレストランの皆様も、コロナ禍で苦境に立たれている中、急速冷凍機をお店に導入しようと考えられていると聞いて。そこで、銀座のレストランの皆様にご協力をお願いしました。

――今回、集まっていただいた皆様が、立ち上げから関わってくださった方々なんですね。やはり、コロナ禍は皆様にとって大変な時期だったのでしょうか。

竹田さん:飲食店にとってあの時期は、ものすごいダメージでした。うちは、パンを銀座木村家さんから仕入れているので、銀座1丁目から木村家さんまで歩いていくのですが、銀座通りが近くなるにつれて、空気がどんどん変わっていくんです。通りに人はいないし、車も走っていない、店も閉まっている。そんな中で、「なんとかして飲食店を盛り上げよう」と踏ん張ったのが、この4人です。それで、うちが当時導入していた急速冷凍機を皆様に解放したら、「これは、時空を超えた商品が作れるよね」ということに。ちょうど、松屋銀座さんが新しい冷凍食品のブランドを立ち上げようとしていると聞いて、「よし、来たぜっ!」と思いましたね(笑)。

吉澤さん:〈銀座 日東コーナー 1948〉さん、〈銀座みかわや〉さんが冷凍食品の開発を始めたことで、周囲には、「あの店が冷食をやるんだ」というインパクトはあったと思います。個店が冷凍機を導入して、冷凍食品を手がけるということはこれまであまりなかったですから。そこから、助成金を使って、急速冷凍機を導入する店が銀座界隈で広まったんです。

――急速冷凍機を導入できたことも、大きなきっかけだったんですね。

吉澤さん:それは大きいと思います。3Dフリーザーと呼ばれる急速冷凍機は、食品を全方向から均一に冷凍することができるので、解凍した時に味が損なわれにくいんです。

渡仲さん:私は当初、正直「冷凍する」ということに抵抗感がありました。冷凍ってどうしても、解凍したときに食感が崩れてしまうイメージがあったんです。竹田さんから話を聞いて、「ダメ元でもいいから、一度試してみよう」という気持ちでした。でも、実際に試して食べてみたら、「これはすごいな」と。あの感動があったからこそ、自分の中の冷凍に対する概念がガラリと変わって、今があると思っています。冷凍って、食品を保存させるだけの手段じゃなくて、一つの食の形だなと。

竹田さん:試作は相当やりましたよね。渡仲さんなんて、夜中の1時、2時に何度もうちの店に来て試作してましたよ。冷凍って、アイデア次第でいかようにも作れるので、店の個性が出やすいんです。たとえば〈銀座吉澤〉さんだったら、ハンバーグは本当にジューシーで、肉の甘い味わいが際立ってます。〈銀座ピエス・モンテ〉さんであれば、チーズケーキ一つ作るのにも工程が緻密で、その手間と完成度を、冷凍という形で閉じ込めたという感じ。〈銀座みかわや〉さんはもう、科学者ですよ!解凍した時に一番おいしく仕上がるように、秒単位で研究していますからね。

――冷凍食品を開発する上で、お互いのお店で刺激し合うこともあったんですか?

竹田さん:勉強になることばかりでしたね。〈銀座みかわや〉さんがうちの店に来て試作をするのも見て、「こうやって揚げてるんだ」とか「ガロニチュール、こんなふうに作るんだ!」と発見があったり、〈銀座吉澤〉さんのハンバーグは「肉の甘みが、こんなにあるんだ」と感激したり。〈銀座ピエス・モンテ〉さんのチーズケーキは、ケーキ表面の焼き色のグラデーションが、とにかく鮮やかで美しいんですよ。僕からみたら、セクシー(笑)。

下村さん:見た目の美しさにはこだわっていますね。昔、先輩から言われたんですけど、人間のDNAにはおいしいものを感じ取る能力がもともと備わっているそうで。目で見てツヤがあったり、見た目がきれいなものは、すでにおいしく出来上がっているんだそうです。果物とかが、まさにそうだと思うんですけど。だから、作っている間の工程でも、仕上がり具合でも、ツヤがあって滑らかになるように意識しています。急速冷凍を使えば、そのツヤ感や美しさをそのままの状態でキープできるんです。〈銀座みかわや〉さんの「かにクロケット」も、冷凍してもきれいなきつね色というか、柴犬の毛のような色がしっかりキープされていますよね(笑)。

渡仲さん:それも、急速冷凍技術だからこそ実現できたんですよ。これが普通の冷凍だと、チーズケーキもツヤがなくなっていって、真ん中がくぼんでしまいますよね。うちのかにクロケットも、ふっくら揚げたてのままを急速冷凍できるので、きつね色もきれいに残せますし、ご自宅でもできたてに近い状態で食べていただけます。

下村さん:チーズケーキも、できあがりから30分、1時間と時間が経つにつれて、味の劣化がグーッと始まってしまうので、やっぱりできたてが一番おいしいんです。急速冷凍だと、おいしい瞬間をグッと食い止めることができるのが大きいんですよね。

個性が光る、各店自慢のフローズングルメ【店主のこだわりを聞きました】

キャベツのかたさと塩加減を研究〈銀座 日東コーナー 1948〉

竹田さん:手間をかけたのは、キャベツのかたさと塩加減です。ロールキャベツのキャベツを煮る工程は、お店に出すものは3回ですが、冷凍で出しているものは2回で止めています。なぜかというと、キャベツの微妙な繊維質が冷凍によって柔らかくなってしまうからなんです。

3回煮込んだ後と、2回煮込んで急速冷凍して解凍した後では、同じぐらいの水分量になることがわかったのですが、それを見つけるまでにかなり時間がかかりました。

あとは、お店であればお客様が目の前にいらっしゃるので、その方の様子で塩味の加減がわかるんですよ。お酒と一緒に召し上がるのかとか、その方の年齢層なども。それが、冷凍食品になるとわからないわけです。広い世代の人にでもおいしく食べていただくための、その塩味加減が難しかったですね。

解凍後も楽しめる肉肉しさとジューシーさ!〈銀座吉澤〉

吉澤さん:うちのこだわりは、松阪牛100%で作っているというところ。ハンバーグの冷凍は、探せばいくらでもあると思うんですけど、うちは松阪牛をたくさん扱っている問屋でもある。その強みを生かして「冷凍ハンバーグを松阪牛100%でやっちゃおうよ!」というところから企画がスタートしました。

難しかったのが、ひき肉のひき加減。これくらいがいいだろうという粗めで作ると、解凍後は練り物のようにやわらかくなってしまう。肉肉しさがありながら、解凍後にもジューシーさがあるようなひき加減を調整するのが難しかったです。

あとは、ご自宅に届いたら、湯煎をして解凍してもらうだけで、誰もが失敗しないおいしく食べられるハンバーグということも意識して商品化しました。

一番おいしい状態を急速冷凍でキープ!〈銀座ピエス・モンテ〉

下村さん:うちの店では、チーズケーキを焼きたての熱い鉄板のまま急速冷凍機に入れて、そこから一気に冷凍状態までもっていきます。そうすることで、味の劣化を食い止めることができ、ご自宅での解凍後も焼きたてと同じ状態でおいしく味わってもらえます。

お菓子の冷凍は、二流品、三流品というイメージが強いと思うんですが、冷凍品でもブランド力を損なわないことを特に気にしていました。その上で松屋銀座さんの「ギンザ フローズン グルメ」であれば、それが実現できると思ったんです。

前の店舗から数えると、銀座で40年になるので、古くからのお客様も多くいらっしゃいます。そういう方が年を召されて、なかなかお店まで足を運ぶことが大変になることもありますし、もともと東京で仕事をしていた方も、引退されて地方に行かれる方も少なくありません。それで、商品を送って欲しいという声が多かったのですが、この急速冷凍であれば、安心してお届けできると思います。

一皿完成のワンディッシュ。店独自のメニューでも勝負!〈銀座みかわや〉

渡仲さん:私たちがこだわったのは、ワンディッシュで楽しめるということです。レストランで出るメニューには、添え物がつきますよね。その添え物も含めての冷凍品として一緒に入れて、一緒にパッケージし、ひとつの商品として完成させました。 洋食って、冷凍食品ではありふれていますよね。グラタンやハンバーグ、コロッケなどは、大手さんはみんなやっています。一緒のものを出しても、ちょっと面白くないなと思って。そこは、〈銀座みかわや〉として出さないといけないので、一般では取り扱っていない商品を出す必要があると思いました。そこで、かにクロケットはタラバガニを使っているし、量を入れないと味が出ないので、それを特徴に作っています。タラバガニを使ったコロッケを冷凍しているところなんて、どこもやっていないですよ、やるなら、突き抜けないとと思って(笑)。

「松屋さんだから挑戦した」。人と人のつながりの土台があったから実現

――銀座フローズングルメを街ぐるみで盛り上げられたのは、銀座だったからというのもあるのでしょうか?

吉澤さん:それはすごくあると思います。私たちは、銀座の若手経営者の会である「銀実会」のメンバーでもあるのですが、松屋の社長・古屋さんは、僕の1歳上の先輩で、銀実会でも同時期に活動していて、公私ともにつながりがあるんです。それで、松屋さんで催事があれば声をかけていただいたり、逆にこちらができることがあればお手伝いしたり。こういう土台があったからこそ、今回のような取り組みもスムーズにできたんだと思います。

竹田さん:そのつながりがすごく大きかったですよ。だって、コロナ禍で困っている時に頼れるのって、仲間しかいないじゃないですか。

渡仲さん:銀座の街の経営者さんって、仲間意識がすごく強いんですよね。普通、同じ街で同じ業態だったら、ライバルじゃないですか。でも、誰一人ライバルだと思っている人はいなくて。それぞれが得意としているものがあって、お互いがリスペクトし合って助け合っていますね。「あそこが頑張っているなら、うちも頑張らないとね」というように切磋琢磨し合って、そうやって街が活性化してきたところがあります。みんながそうやって頑張っているから、「銀座に行けばいいものがある、だから銀座に行こう」みたいな、好循環が生まれているんじゃないかと。そこが、銀座のよさだと思いますね。

下村さん:この会にしても、すでに2世3世と世代交代で続いているので、若い人が多いんです。もちろんOBもいるので、横のつながりのマンパワーも、縦のつながりのマンパワーもあるんです。40歳までの会ということで若い人が多いのもあって、柔軟にいろいろなことができるんですよ。銀座の街も、流行の先端をいくところがあるので、街と人がマッチしているのかなと思います。

竹田さん:これは、渡仲さんとも話していたことなんですが、このフローズングルメに参加した当初、「これって、松屋さんじゃなかったらやってないよね」と話していたんです。松屋さんじゃなかったら、われわれは動いてなかったはずだし、これからもそういう展開が続いていくんだと思うんです。これからも、松屋さんを起点に、“銀座×食×冷食”を盛り上げていけたらいいなと思っています。

――松屋銀座が開店100周年を迎えて、その節目の年にも、さまざまなイベントが企画されていますね。また、これから目指していきたいことなどを教えてください。

吉澤さん: 100周年にちなんだ企画があれば、必ず銀座の仲間にお声がけくださるのはありがたいですね。

髙取さん:私たちも、銀座の街の皆様と100周年を一緒にお祝いできたこと、また、さまざまな企画でご一緒できていることが、すごく嬉しく思います。今、「ギンザフローズングルメ」は、60代〜70代の世代の方にご購入いただく機会が多いのですが、もう少し若い世代の方にも手に取ってもらえるように取り組んでいるところです。例えば、松屋銀座以外にも、11店舗のお店で取り扱いをさせてもらっているのですが、そちらに出向いて、実際に街の方々に味わってもらい、そのよさを知ってもらう取り組みもしています。ギンザフローズングルメは今年の8月で丸3年を迎えたばかりで、乗り越えていかなければいけないことはまだまだありますが、ギンザフローズングルメのコンセプトでもある「おいしさと笑顔の引き出し」をお客様に届けられるように、関わってくださっている皆様と力を合わせて今後も挑戦をし続けていけたらと思います。

GINZA FROZEN GOURMET

場所:松屋銀座 地下2階 GINZA FROZEN GOURMET
オンラインストア:https://store.matsuya.com/cp.html?fkey=reitousyokuhin_2022

PHOTO/HIKARI TABUCHI TEXT/ARI UCHIDA