松屋の冬の風物詩、チャリティーバッジ。100周年イヤーでもある今年はムーミンとのコラボレーションで、祝祭を彩る花々をあしらった4種類のデザインが登場しました。長年にわたり続くこの取り組みは、収益の全額を世界の子どもたちの教育支援として寄付する、松屋を代表する社会貢献活動です。なぜこの企画は長く愛され、受け継がれてきたのか。企画担当の⻆田さんにお話をうかがいました。
約40年続く、松屋のチャリティーバッジ

——松屋のチャリティーバッジはいつ頃から始まったのでしょうか?
先輩方から、1986年頃からの取り組みだと聞いています。ですので、約40年続いていることになります。当時の詳しい資料は残っていないのですが、「社会の役に立つことをしたい」という強い思いから始まったそうです。
また、当初は国内外の環境保護を目的としたチャリティーが多かったそうで。森林破壊や環境汚染といった問題が、強く意識され始めた社会的な状況も影響していたのかもしれません。そうした流れを受けて、百貨店業界でも、クリスマスの時期にチャリティーに取り組む動きが次第に広がっていきました。
1991年頃からは、ADO(全日本デパートメントストアーズ開発機構)による「どんぐりバッジ」の取り組みが始まり、翌年には業界全体へ。当時は、百貨店のクリスマスシーズンを象徴するチャリティーとして知られていました。この「どんぐりバッジ」は、私も小学生の頃、親に買ってもらっていたのでよく覚えています。
——そうした時代背景もあったのですね。松屋としては、その後どのように展開していったのでしょうか。
ここ最近の20年間でお取り組みをしたのは、公益社団法人「セーブ・ザ・チルドレン」 、公益財団法人「日本自然保護協会」、「桃・柿育英会」による東日本大震災で被災された遺児の支援 、特定非営利法人「ジャパンハート」などです。
——最近はムーミンのデザインが定番ですが、ずっとそうだったのですか?
ここ20年ほどを見ても、バッジのデザインは多種多様に展開してきました。8階のイベントスクエアで開催する展覧会のキャラクターや、ミナ ペルホネンさんとのコラボレーションなど、印象的で親しみやすいデザインも数多く登場しています。
一方で、松屋は1950年代から北欧デザインを発信してきており、2019年にはムーミンプロジェクトを始動。グループ会社がライセンス事業にも深く関与するなど、近年その関係性を強めています。北欧の価値観を背景に持つムーミンのやさしい世界観は、チャリティーの考え方とも親和性が高く、こうした背景から、近年はムーミンのデザインが定番となっています。
——そうした流れの中で、松屋として大切にしてきたことは何でしょうか?
多幸感の高まるクリスマスの時期にチャリティーを実施することで、身近な人や世界中の人たち、さらに地球全体の未来のためにできることを、無理のない形で提案し続けています。
松屋は、銀座と浅草の2店舗のみの展開です。そのため、規模の大きなムーブメントを起こすことは難しいかもしれません。しかし、銀座の地で100年にわたりお客様にご愛顧いただいてきたように、小さな取り組みであっても継続することで、社会に貢献していけると考えています。
誰でも気軽に参加でき、日常の延長線上で幸せをお裾分けできること。それが松屋のチャリティーバッジの在り方なのだと思います。
——長く愛されてきている理由は、そこにあるのかもしれませんね。
お客様からは「毎年楽しみにしている」というお声を本当によくいただきます。そして、それは私たち社員にとっても同じです。「今年はどんなデザインになるのだろう」と、毎年自然と気になる企画になっていて、歴代のバッジをコレクションしている社員も少なくありません。私自身も担当になる前から、同じように毎年楽しみにしていました。


【ムーミン×松屋】 松屋銀座開店 100周年記念チャリティーバッジ、今年ならではの魅力は?

——今年のバッジは、華やかなデザインが印象的ですね。
今年は、ムーミン小説の出版80周年と、松屋銀座の開店100周年という、ふたつの節目が重なる特別な年です。長年にわたり関係を築いてきた松屋とムーミンだからこそ実現した、記念性の高いコラボレーションになりました。ここ数年のムーミンコラボの中でも、今年はとくに“祝祭感”を大切にしています。
——デザインはどのように決めていったのですか?
ムーミンの権利元から提供されている膨大な量のイラストやデザインの中から、過去に松屋のバッジに使用していないデザインを探し出し、主要なキャラクターを選びました。そこに100周年を祝う気持ちを込めて「花」のモチーフを組み合わせ、最終的に4種類のデザインに仕上げています。
——工夫されたところはありますか?
たとえばムーミンとスノークのおじょうさんは、もともとベンチに座っているイラストだったのですが、アクセサリーとして日常的につけていただくことを考え、背景を省いたデザインに調整しました。ファッションの一部としてももちろん楽しんでいただきたいので、使いやすい形を意識していますね。
また、私が去年担当になった時から、ピンバッジをマグネット式に変更しています。これは「服に穴が開くのは嫌だと感じる方もいるのではないか」という視点から、より気軽につけていただける形を考えましたが、ピンバッジの方がよかったというお声もあり、また次回に向けての検討課題にしたいと思っております。

ニョロニョロについては、今回のためのオリジナルデザインです。花のモチーフを組み合わせながら、バランスを見て数も調整し、祝祭感のある仕上がりにしました。

今年もかなり好評をいただいていて、複数まとめて購入される方も多いです。よく聞くのが「カラフルでかわいい」というお声。今のところニョロニョロ、リトルミイが人気です。
バッジの先にあるものは? ルーム・トゥ・リードとの歩み
——世界の子どもたちの教育を支援する「認定NPO法人ルーム・トゥ・リード・ジャパン」への寄付を長く続けていますが、お取り組みのきっかけを教えてください。
当時の担当者が、「お客様からお預かりした寄付が、どんな形で役立っているのか」をきちんと伝えられる支援先を探す中で、ルーム・トゥ・リードさんと出会ったと聞いています。共同創設者のジョン・ウッド氏の著書を読み、教育を通じて社会を変えていくという考え方に深く共感したことも、大きな後押しになったそうです。
特に印象的だったのが、図書室の設置など、支援の成果が「形」として残ること。寄付が未来につながっていく様子を、具体的にお客様へお伝えできる。そうした点に意義を感じ、支援が始まりました。
——ルーム・トゥ・リードの活動に触れて、心に残っていることはありますか?
識字率がまだ低い地域では、教育の機会はもちろん、娯楽そのものが限られている子どもたちも少なくありません。そんな中で、絵本を読むことが大きな楽しみになっていると聞いています。
2019年にカンボジアを視察した弊社社員は、朝、図書室が開くと同時に子どもたちが一斉に駆け込んでいき、夢中で本を読む姿を目の当たりにしました。その光景を見て、支援の意味を改めて実感したそうです。

——松屋として、こうした支援をどう捉えていますか?
未来を担う子どもたちは、地球の宝物だと考えています。どこに生まれても、等しく教育の機会が与えられ、幸せに生きていける世界づくりに関わることは、「共存共栄」や「人間尊重」といった松屋の経営方針にも通じるものです。
ルーム・トゥ・リードが女子教育に力を入れている点にも共感しています。女性のお客様が多い百貨店として、お客様とともに社会と向き合いながら、これからも貢献を続けていきたいと考えています。
バッジ1個の購入で、
現地語の児童書3冊、または女子教育プログラム3日分の支援に
認定NPO法人ルーム・トゥ・リード・ジャパン
事務局長 松丸佳穂さん
2008年以降、松屋様には長きにわたりご支援をいただいており、これまでに累計で、ネパール、インド、カンボジアをはじめとするアジア地域の子どもたち約3,200人分の教育支援に相当するご寄付をお預かりしてきました。
たとえばカンボジア北西部、タイ国境に近いバンテイメンチェイ州にあるプレイチャンハー小学校。この地域では、大人の識字率が8割に満たず、「教え方がわからない」という課題を抱える教師も少なくありません。皆様のご支援により、色とりどりで安全な図書室が設置され、年齢や学年に応じた現地語の児童書がそろえられました。

ムーミンの物語に流れる「誰でも受け入れる優しさ」や「物語の力」は、私たちが掲げる「すべての子どもに教育を」という想いとも深く重なります。私たちルーム・トゥ・リードも今年25周年を迎えました。松屋様の銀座店開店100周年という節目の年に、長年続くチャリティーバッジの取り組みを、今年もご一緒できることに心から感謝しています。
歴史があるからこそ、世代を超えて受け継がれるチャリティーバッジに
——企画を受け継ぐ立場として、いま感じていることを教えてください。
先日、チャリティーバッジを2つ購入してくれた高校生の女の子に、そのきっかけを聞く機会があったんです。そしたら「母が昔から集めていて、今日は誕生日なのでプレゼントにしようと思って」と。その言葉から、お母様から娘さんへ、チャリティーの精神が自然に受け継がれていることを感じました。同時に、「毎年楽しみにしている」というお客様の声に、きちんと応えられているんだ、という実感も湧きました。
約40年も続いている企画と知ったときは、驚きました。でも、それは歴代の先輩方が大切にしてきた思いと、長年ご愛顧くださっているお客様の存在があってこそ。なので、これからも「楽しんでいただけるもの」を丁寧につくり、無理なく、誠実に続けていきたい。企画を受け継ぐ立場として、今はそんな責任とやりがいを感じています。
松屋オリジナル チャリティーマグネットバッジ

販売期間:2025年11月12日(水)―1月31日(日)
販売場所:銀座店7階 デザインコレクション、テーブルジョイ、京橋側エスカレーター前
価格:各1,000円
オンライン:https://store.matsuya.com/goods/index.html?ggcd=25cbg001
※なくなり次第終了。
認定NPO法人ルーム・トゥ・リード・ジャパン

ルーム・トゥ・リードは、「子どもの教育が世界を変える」との信念のもと、2000年に設立されました。私たちは、子どもたちの基礎的な識字能力の育成に加え、ジェンダー平等を促進するライフスキルの習得を支援しています。この重要なスキルを育むために、教育者への研修や指導を行い、質の高い学習教材や学習環境を整え、教育制度の強化を図りながら、直接またはパートナーと協力してプログラムを実施しています。すべての子どもの尊厳を大切にしながら、より多くの子どもたちに、より早く学習成果を届けることを目指しており、これまでに29カ国で5,200万人以上の子どもたちに恩恵をもたらしてきました。ルーム・トゥ・リードは、非識字とジェンダー不平等のない世界を実現し、すべての子どもが学び、成長できる環境を築くことを目指しています。
ウェブサイト:https://japan.roomtoread.org/
ご支援・お問い合わせ:japan@roomtoread.org
PHOTO/HIKARI TABUCHI TEXT/AYANO SAKAMOTO
















