さまざまな“〇〇のプロ”が登場し、銀座の名店をナビゲートするこちらの企画。今回は、菓子研究家としてメディアへのレシピ提供やお菓子の開発、お店のロゴやラッピングのコーディネートなど食にまつわるモノ・コトを幅広くディレクションする福田里香さんが銀座にあるスイーツ店をシチュエーション別にご案内します。
Vol.3 福田里香さんのスイーツ案内

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菓子研究家
福田里香さん
プロフィール
菓子研究家。
書籍や雑誌、onlineへのレシピ提供にはじまり、お菓子のレシピ開発など食にまつわるモノ・コトのディレクションを手掛ける。DEAN&DELUCAとコラボした焼き菓子「C’est mignon Classique」シリーズを絶賛発売中。料理本のほか、映画や漫画などの中で取り上げられる「フード表現」の法則や意味を紐解いたコラム集が文春文庫から12年振りに『物語をおいしく読み解く-フード理論とステレオタイプ50』と題して復刊
Instagram:@riccafukuda
“銀座”の印象やおすすめの歩き方は?

キャラクターやストーリー性のあるスイーツ揃いの街
老舗の洋菓子や和菓子、最新のカフェのスイーツ、デパ地下の和洋菓子……とにかく新旧問わず、また地方の銘菓も含めてスイーツ天国である銀座。
「スイーツって食事と違ってなくてはならないものではなく、言ってみれば娯楽なんです。だからどんなスイーツなのかというキャラクターや、どういう背景があってできたのかというストーリー性が大事だと思います。それらがしっかりあるのが銀座のスイーツという印象です」(福田さん)
100年以上続き長く愛されてきたお菓子があれば、話題の先駆け的存在のスイーツもあります。こうしたさまざまなスイーツたちが銀座の街を作るピースにもなっているのです。
「スイーツを扱う喫茶店文化も特有のものがあり、ケーキ屋さんに併設する喫茶室やパーラー、そして今ではカフェなど時代とともに発展してきたのも銀座ならではだと感じます」(福田さん)
ほかにはない銀座ブランドの菓子
「銀座には、浅草の人形焼きのような名物が見当たりません。例えば、デパ地下に入っている地方の銘菓を買って帰れば、銀座の銘菓ではないのに、銀座土産になります。そして銀座土産はどこへ持っていっても特別感があり喜ばれるもの。それは銀座にはいいものがあるという共通認識があって“銀座ブランド”になっているのです。そういう街は日本中どこを見ても珍しいのではないでしょうか」(福田さん)
そんな独特の文化をもつ銀座で、福田さんはお仕事の打ち合わせやお買い物ついでに喫茶室やカフェに寄ったり、デパ地下で買い物をしたりするのが好きなのだそう。
「銀座は、ただぶらぶら歩くだけでも楽しい街。少し疲れたらカフェでひと休み、友人への手土産やお祝いを探したり、ときには自分へのご褒美を選んだり。そんなとき、銀座ブランドのスイーツがあれば、やっぱりうれしいものです。さまざまなシーンで楽しめる――それが、銀座のスイーツの強みじゃないでしょうか」(福田さん)

昭和レトロな喫茶室でふるまわれるケーキが絶品

1947(昭和22)年に、銀座でレストランとして始まった「銀座ウエスト」。その後時代の流れに合わせて喫茶店へと変わりながらも銀座の街で長年愛されています。
「大通りにあるテイクアウト用のショーウィンドウの横に、少し奥まって扉があります。そこを開けると、昭和の世界が広がる喫茶室。こちらで私が楽しみなのにしているのが、スタッフの方がトレーにのせてケーキをテーブルまで運んできてくださり、その中から好きなものを選べること。どれにしようかと迷う、その時間も楽しいです」(福田さん)


季節の花が飾られた店内はゆったりとした空間で、クラシックやジャズなどスタッフがセレクトした曲が心地よく流れています。真っ白なテーブルクロスや椅子の背もたれのシートはとてもクラシカルな雰囲気で、落ち着いたひとときを過ごせます。


「お店でケーキのほかに、おすすめしたいのが喫茶室でしか食べられないミルフィーユやハーフ&ハーフシューです。特にミルフィーユは絶品。注文してからパイにクリームを挟んで提供されるので、パリパリ感が素晴らしい。ナイフとフォークで思いっきりザクザク切りながらほおばります」(福田さん)

どれも素材にこだわり、丁寧に作られているのがわかります。
「銀座ウエストを知ったのはやはり看板メニューであるリーフパイ。帰省する際に、買って帰ると、東京土産、銀座土産として喜ばれますから。そんなリーフパイを店内では温めて提供してくださるんです。温めたことでバターの香りがふわっとしてなんともいえない幸福感。これが長年愛される味なのだとつくづく思います」(福田さん)
DATA

銀座ウエスト 本店
電話番号/03(3571)2989(喫茶)
住所/東京都中央区銀座7-3-6
営業時間/午前9:00 ~午後10:00 土・日・祝午前11:00 ~午後8:00
定休日/なし
アクセス/東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線「銀座駅」C2出口より徒歩5分
滋賀県の老舗和菓子屋が手掛けるセンスが光る洋菓子
数々のスイーツ激戦区といえばやはりデパ地下。東京の有名店から地方の銘菓まで、選ばれし名店が揃います。
「和菓子好きなら、滋賀県の銘菓、菓心おおすがさんのことを知っている人も多いはず。このお店が2013年から手掛けた洋菓子屋さんが&Anneで、おおすがの和菓子も&Anneの洋菓子も東京で買える日がくるなんて……とオープンしたときは感激しました」(福田さん)

店頭に行ってみると、ショーケースもひときわ目をひくセンスのよさ。秋友家具製作所のしつらえで、台の部分は大理石製。そこには和菓子のおおすがと洋菓子の&Anneの商品が所せましと並びます。
「ぜひとも自分へのご褒美に手に入れたいのが、料理家・堀井和子さんがパッケージデザインを手掛けているクッキー缶。料理に携わる人なら憧れる人も多い、堀井さんにの手書き文字が書かれた缶がとてもかわいいしセンスがいい。そこに大振りのクッキーが贅沢に入っているんです」(福田さん)


クッキー缶の中には、国産小麦にこだわって丁寧に焼き上げられた、レモン風味のガレットやビスキュイなどが5種類。上質な素材を使い、一枚一枚手焼きされたクッキーは、素朴ながらも奥深い本物の味わいです。
DATA

菓心おおすが/&Anne
電話番号/03(3567)1211<大代表>
住所/東京都中央区銀座3-6-1 松屋銀座B1食品
営業時間/午前11:00〜午後8:00 日・連休最終日〜午後7:30
定休日/松屋銀座店休日に準ずる
アクセス/東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線「銀座駅」地下道直結
お祝いのアイコン、赤飯に見立てた和菓子
「萬年堂本店」は、今から400年以上前の1617(元和3)年、京都寺町三条で「亀屋和泉」として創業し、御所や寺社などに菓子を納めていた由緒正しき和菓子屋。明治時代の遷都に伴い東京八重洲北槇町に「亀屋和泉萬年堂本店」と看板を掲げた後、銀座へ。



「これほど長く親しまれているのには、やはり訳があるんですよね。語りたくなるようなストーリーがあり、お菓子そのものにもキャラクターがあるのです。看板商品「御目出糖」もそのひとつ。小豆にもち粉、米粉を混ぜてそぼろ状にして蒸した高麗餅を赤飯に見立てたお菓子です。
赤飯ってお祝いの象徴のようなもの。でも赤飯そのものではなく、こうしてお茶と一緒に食べられるのがいいですよね。そして素朴でいておいしい、これが長く愛されている理由なんだと思います」(福田さん)

「御目出糖」はもちっとした食感と優しい小豆を活かした、シンプルだからこそごまかしの利かない味。あんは小豆を茹でる際に途中でゆで汁を捨てる工程の渋切りをあえてせず、手間をかけて煮詰めることで小豆本来の味わいを残しています。こうした丁寧な手仕事が長年にわたって愛される理由なのでしょう。
DATA

萬年堂本店
電話番号/03(6264)2660
住所/東京都中央区銀座7-13-21
営業時間/午前11:00~午後6:00
定休日/無休
アクセス/東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線「銀座駅」A1出口より徒歩3分
PHOTO/KAZUHITO MIURA、NORIKO YONEYAMA TEXT/MIE MINEZAWA