開店100周年を記念した松屋銀座初のオリジナルスーベニアが、2025年4月29日(祝・火)にポップアップショップ「MATSUYA GINZA Souvenir Store」でお披露目されます。今回はデザインを担当したデザイナー・小杉幸一さんにインタビュー。このスーベニアが生れた背景とともに、デザインに込めた想いを聞きました。

INTERVIEW

onehappy
代表
小杉幸一さん

PROFILE

武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。博報堂を経て、2019年に「onehappy_」設立。広告、空間、プロダクトなどのアートディレクター、クリエイティブディレクター、グラフィックデザイナーとして活躍。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科客員教授、多摩美術大学統合デザイン学科非常勤講師、岡崎市市政ディレクター、新東通信クリエイティブブティックGINZA CREATIVOフェローを務める

100年以上前に誕生した「松鶴マーク」をアップデートして、未来につなぐスーベニアに

「松鶴マーク」をモチーフした、松屋銀座初めてのスーベニア

「世界の名だたる百貨店には、ロゴをデザインしたエコバッグなどのスーベニアがある。松屋銀座も世界中の人々が集まる銀座の百貨店として、開店100周年を機にスーベニアを作ってみよう」という松屋9代目・古屋毅彦社長の発案からスタートした松屋銀座初めてのスーベニア作り。

そのデザインを託されたのは、これまでさまざまな分野のクリエイティブディレクション、アートディレクションを担当してきたデザイナーの小杉幸一さんです。

「まずは、100周年の『つなぐ・つながる・つなげる』というキーワードをデザイナーとしてどのように拡張していくか。そして松屋の歴史あるストーリーをどのように装飾的に盛り込んでいくかなどを考えるところから始めました」

1869年に横浜で創業した松屋の原点「鶴屋呉服店」は、1889年に東京・神田の「今川橋松屋呉服店」を買収。松鶴マークは「松」と「鶴」を組み合わせて図案化したもので、1907年から「松屋」と「鶴屋」の双方で使われていました。

1924年に商号を「株式会社松屋呉服店」に改め、翌年に松屋銀座を開店した後も松鶴マークは看板や包装紙などに使用されましたが、1978年の大リニューアル以降は社章としてのみ用いられるように。初めてのスーベニアには「松鶴マークに再び光を当てて、未来へとつないでいきたい」という松屋銀座の思いが込められているのです。

そうした歴史を持つ「松鶴マーク」をスーベニアのモチーフにすることが、松屋銀座から小杉さんへの依頼でした。

思いを“翻訳”して、新たなデザインを生み出す

クライアントの思いを自身のフィルターを通して“翻訳”し、視覚化していくことを大切にしていると言う小杉さん。今回はどのように翻訳していったのでしょうか。

「ただ新しいものを作るのではなく、これまでの松屋銀座の歴史と今の時代性をクロスできないかと考えました。その接点が見つかれば、自然と新しいものが生まれるのではないかと」

「松鶴マークは、誕生した時代や松屋がもともと呉服店だったことから推測すると“反物”が発想のベースになっていると思うんです。衣類の傾向は時代によって変わっていくので、当時ではありえない色や、現代人がパソコンやスマートフォンで見慣れている発色性のある色を松鶴マークと組み合わせてみたらどうだろうか。その接点が見つかった瞬間に、新たなデザインが見えてきました」

そうして誕生したのが、蛍光色の松鶴マーク。トートバッグには大胆なサイズでピンクとグリーンの松鶴マークをデザインしています。

「蛍光色の松鶴マークはもう少し小さくという案が松屋銀座さんの社内でも出たそうですが、今回は100周年記念のアニバーサリーグッズでもありますし、改めて松鶴マークのよさを伝えたかったので、『松鶴マークは堂々とすべき』と感じ、大きくデザインしました」

読みにくさを付加価値にした遊び心あるデザイン

松鶴マークをデザインしたアイテムは、トートバッグのほか、マークの色を変えてTシャツやマグカップも展開。いずれのアイテムにも、松鶴マークの左側に筆記体のサインと現代の松屋ではおなじみの「MGマーク」がデザインされています。

「和ではあるが和のど真ん中ではない。今っぽいというと軽すぎるかもしれませんが、昭和時代から国内外のデザインを発信し、『デザインの松屋』と呼ばれてきた松屋銀座さんが持つファッション性を意識してみました。ど真ん中から少しずらすことによって、手にしてくださるお客様の間口が広がり、新しい価値観みたいなものが提示できると嬉しいなあと」

Tシャツの松鶴マークも存在感たっぷり。筆記体のサインやMGマークのデザインにも注目を

「MGマークは赤字にして落款に見立てました。筆記体は『Matsuya Ginza』と書いてあるですが、左に傾けて、あえて読みにくくしています。ぱっと見で読めないことで、『なんて書いてあるんだろう?』と気になったり、『なんて書いてあるの?』と会話のきっかけになったり。そんな広がりが生まれたらいいなと思っています」

デザインで松屋銀座の歴史をさらに深掘り

小杉さんデザインのスーベニアは、もう1パターンあります。1925年に銀座に開店した「松屋呉服店」のロゴをデザインに盛り込んだアイテムも制作しました。

「松鶴マークは100周年のキーワード『つなぐ・つながる・つなげる』を装飾的に表現しましたので、松屋銀座のストーリーをもっと深掘りして、呉服店だったころの佇まいを伝えられるようなアイテムもあったらいいなと思いました。

『松屋呉服店』の文字は、松屋銀座が開店の際に出した新聞広告の文字を取り込んだもの。印刷物特有の文字のゆらぎを活かしたかったので、あえてそのまま使用しました。『MATSUYA GINZA』と『1869』は新たに加えた文字ですが、バランスが取れるよう、文字のアウトラインに少しゆらぎを出しました」

さらに直線的な「MGマーク」を上下に重ねて、「松屋呉服店」などの文字と組み合わせることで、モダンさが一段と高まっています。

「僭越ながら、日本のデザイン界の巨匠で、大先輩でもあるグラフィックデザイナーの仲條正義さんがデザインされた『MGマーク』を使用させていただきました。しかも逆さにしてつなげるという…」

「仲條さんのほかにも、1964年の東京オリンピックのシンボルマークやポスターを手がけた亀倉雄策さんなど、松屋銀座に関わられてきたデザイナーの顔ぶれはそうそうたるもの。ですから、僕がかかわるなんて、おこがましい気持ちでいっぱいでした」

「ただ、スーベニアチームの方々に、新しい視点、自由な感覚でとおっしゃっていただいていましたので、すごく恐れ多い“ドキドキ”と、楽しい“ワクワク”の中で、デザインに取り組むことができました。今回の僕のデザインとスーベニアがこれからの100年につながっていく、新たな起点のひとつになると嬉しいですね」

松屋銀座初めてのスーベニア「MATSUYA GINZA Souvenir Store」でお披露目

100周年のアニバーサリーコレクションのひとつ、松屋銀座初めてのスーベニアが、4月29日(祝・火)よりポップアップショップ「MATSUYA GINZA Souvenir Store」にて販売スタート。小杉さんがデザインを手がけた松鶴マーク/松屋呉服店のデザインのほか、菊文様をモチーフにした総柄デザインのスーベニアも登場します。

デザイン1 松鶴マーク/松屋呉服店 designed by 小杉幸一

小杉さんデザインのスーベニアは、トートバッグ、Tシャツ、マグカップの3アイテム。選ぶ楽しみも提供できるよう、トートバッグとTシャツは多色展開していきます。生地のセレクト、カラーも小杉さんがセレクト。

デザイン2 松屋のロゴと菊文様を組み合わせた総柄デザイン

不老不死の意味を持つ「菊文様」を松屋の包装紙や紙袋でおなじみのMGマークで表現。松鶴マークもあしらわれ、松屋オリジナル書体の「GINZA」もデザインされています。アイテムは3つ。エコバッグ、ハンカチ、ノートを展開します。

「MATSUYA GINZA Souvenir Store」がオープンします

2025年4月29日(祝・火)ー5月13日(火)まで、松屋銀座の正面玄関を入ってすぐのスペースに、ポップアップショップ「MATSUYA GINZA Souvenir Store」が登場。松鶴マークや、菊文様の総柄など、100周年を記念して開発されたオリジナルのスーベニアが勢揃いします。公式ECサイト「matsuyaginza.com」でも購入できるほか、会期後は3階婦人雑貨売場にて販売。

MATSUYA GINZA Souvenir Store
会期:2025年4月29日(祝・火)ー5月13日(火)
会場:松屋銀座1階 正面口プロモーションスペース

PHOTO/KAGIOKA(INTERVIEW),KAZUHITO MIURA(STILL) TEXT/MIE NAKAMURA