松屋銀座で半世紀以上にわたりロングセラーを誇る、デンマーク生まれのダイニングチェア「CH24」。「Yチェア」の愛称でもおなじみの名作椅子の魅力を、カール・ハンセン&サンの郡司圭さんと松屋銀座の生活デザイン部バイヤー、蓑輪正太郎さんが語り合います。松屋銀座開店100周年を記念した特別販売会「100脚のYチェア」など、関連イベントもお見逃しなく。

そもそもYチェアとはどんな椅子?

北欧家具の巨匠、ハンス J. ウェグナーがカール・ハンセン&サンのために初めてデザインしたダイニングチェアの名作。ゆるやかな曲線を描くフォルムの美しさ、クラフトマンシップによる品質の高さ、年月の経過とともに味わいを増す表情など多彩な魅力を持ち、誕生から70年以上経った今もなお、世界中で愛されています

Yチェアをよく知るおふたりによる、深くておもしろい「Yチェア談義」

松屋銀座 蓑輪正太郎さん  生活デザイン部バイヤーとして、世界中の優れたデザイングッズを販売する「デザインコレクション」を担当。2020年に手に入れたYチェアは、オーク材のオイル仕上げ

カール・ハンセン&サン 郡司圭さん  「暮らしに関わる価値のあるもの」の販売に興味を持ち、カール・ハンセン&サン ジャパン株式会社に入社。東京本店での販売やスタイリング、イベントの企画などを経て、現在はVM /トレーナーとして活躍中。初めて購入したYチェアはビーチ材のソープ仕上げ

70年以上変わらず愛され続ける、世界的ロングセラー

──松屋銀座とカール・ハンセン&サンにとって、「Yチェア」は特に思い入れのある椅子と伺っています

カール・ハンセン&サン 郡司さん 椅子の巨匠として知られるハンス J. ウェグナーがカール・ハンセン&サンのために初めてデザインしたのがこのYチェア。1950年からずっと生産されている、当社の代名詞的な存在です。

松屋銀座 蓑輪さん 松屋銀座では1962年に開催された「デンマーク展」で、Yチェアをいち早く日本に紹介したと言われています。当時は松屋の社員が直接デンマークの現地を訪れて、メーカーと契約して商品を仕入れていました。現在も家具売場の「ザ・ホーム」では、常にお客さまからのニーズが高い商品ですね。

ーーそもそも松屋銀座において、カール・ハンセン&サンの家具の需要が高いのはなぜでしょうか

蓑輪さん 松屋銀座のお客様はもともと私どもの「デザインコレクション」(※日本デザインコミッティーのメンバーが厳選したデザイングッズを扱うセレクトショップ)に代表されるような、佇まいの美しさを感じる商品を期待されている方が多いんです。それと、カール・ハンセン&サンが大切にしているクラフトマンシップに相通じるものがあるのではないでしょうか。

郡司さん 実は日本におけるカール・ハンセン&サンが出資してできた百貨店での初めての常設店は、松屋銀座の家具売場内に誕生したショップインショップだったんですよ。ともにデンマークデザインを日本国内に紹介してきた2社なので、その歴史を信頼していただているのかなと思います。

すべてのパーツに意味のある、美しく彫刻的なデザイン

ーー蓑輪さんはご自宅でもYチェアを愛用されているんですよね。百貨店のバイヤーとして日頃からさまざまな家具に接している中で、Yチェアを選ばれたのはなぜですか?

蓑輪さん 実は約10年前にYチェアを初めて見たときの第一印象は「変わった椅子だな」だったんですよ(笑)。だって、背もたれとアームがつながっているし、後ろ脚もよく見るとアームの支えになっているし、見れば見るほど訳がわからなくないですか? 

郡司さん 確かに(笑)。我々はもう見慣れてしまっていますけど、Yチェアが誕生した当時は、このデザインってかなり斬新だったと思うんですよ。先ほど蓑輪さんがおっしゃっていた、背もたれとアームがつながった構造の椅子って当時の一般の人にとってはまだ見慣れないもので、Yチェアはそれを一般化することに貢献した1脚だと思うんです。でもそうした斬新さ、新鮮さを今なお持っているからこそ、時代を超えて愛されているんじゃないかと思うんですよね。

蓑輪さん 今ではその造形が本当に美しいなと思っていて。特に後ろから斜め45°の角度で見たときの佇まいが好きですね。

郡司さん 僕も自宅のリビングに西日が差してきて、Yチェアの影が壁に映し出された時に、新鮮な驚きがありましたね。やっぱり長く残るプロダクトって、日常に馴染みつつも、ある時ハッとする美しさをずっと持ち続けていると思うんです。

蓑輪さん Yチェアってパーツ一つひとつは、すごくシンプルなんですよね。シンプルなパーツを使っているんですけど、組み立て方の工夫で、ふくよかな立体感が出ている。

郡司さん 必要十分なデザインというか。よく彫刻的なデザインと言われますが、14のパーツすべてが、必要な箇所以外を削り取った意味のある形なんです。先ほどの背もたれ兼アームにしろ、これより短いと包まれてる感がなくて、逆に長すぎると、包まれすぎて立ち上がるのが大変だし、後ろ脚一本で支えるのも無理なんですよね。すべての造形に理由があるのが、ウェグナーらしさだと思います。

ーー蓑輪さんは、Yチェアが暮らしの中にやってきたことでなにか変化はありましたか?

蓑輪さん やっぱりいい椅子ってインテリアの中心になりますし、この椅子がきっかけでもっと家の中を素敵にしたいと思うようになりました。もう一つ、生活者目線でいうと、Yチェアってめちゃくちゃ軽いんです。リビングで掃除機をかけるとき、片手でYの部分に手に入れて移動するんですが、すごく軽くて持ちやすいんですよ。名作と言われる椅子でありながら、そういうデイリーの使いやすさがすごくあるのがすごいなと。

郡司さん しかも軽いから不安定かっていうと、全然そうじゃなくて、安定感がすごい。地面に根を張ってくれてるような安心感があるんですね。上からちょっと体重をかけたらすぐわかりますが、地面にグッと4つ足でしっかり立ってくれている感じ。

時代を超えても色褪せないロングライフデザインを適正価格で

蓑輪さん 僕は「デザインコレクション」のバイヤーとして、いいデザインの要素についてよく考えるんですけど。素材や色、造形はもちろんですが、手の届く値段というのも大事な要素だと思うんです。

郡司さん カール・ハンセン&サンは、そもそも一般市民のための美しい家具を、という思いからスタートした会社なので、手の届く価格という部分は重視しています。実はYチェアの14のパーツのうち、13パーツは無垢材なんですが、Yのパーツだけが3枚の合板になっているんです。組み立てをスムーズにするなどの製法上の理由があるんですが、それ以外にも様々な合理化のおかげで適正価格を保つことができるんですよ。我が社のポリシーは、クラフトマンシップと最新の技術を融合させること。そういう意味でYチェアは、カール・ハンセン&サンらしさを特によく表してるプロダクトだなと思います。

蓑輪さん それでいて、空間の和洋を問わず、それこそ森の中でも海辺にも似合うのがすごいですよね。

郡司さん ウェグナーの家具ってものすごく考えられているのに、主張しすぎないデザインなんですよ。日本家屋にも、古民家にも、安藤忠雄さんの建築のような超ストイックな空間にも似合う。美しさとか、かっこよさの基準って、時代によってどうしても変化するので、まだ使えるのに「寿命」を迎えてしまうものって多いじゃないですか。まだ使えるけど使わなくなるものが世の中にたくさんある中で、Yチェアは物理的な耐久性はもちろん、美しさという意味でも耐久性があるんですよね。

蓑輪さん なるほど。それこそがが70年以上変わらず愛されるロングライフデザインの秘密なんでしょうね。

Yチェアとデンマークデザインに触れ合える、松屋銀座の3つのイベント

EVENT1・4月16日(水)ー28日(月)
「100脚のYチェア 展示現品特別販売会」

松屋銀座開店100周年を記念し、ディスプレイなどで使用したYチェアを7階「ザ・ホーム」にて特別価格で展示販売します。素材・カラーの異なる100脚のYチェアが会場を埋め尽くす光景はまさに圧巻です。現品限りなので、早めに来場してお気に入りの1脚に出会おう!

EVENT2・4月16日(水)ー
「CH24(Yチェア) GINZA EDITION 2025」

7階「ザ・ホーム」にて、従来品にはない松屋銀座限定カラーのYチェアの予約販売がスタート。アースベージュ、アースネイビー、アースアイボリーと、どんな空間にも馴染むニュアンスカラーをお楽しみください。各色20脚限定、松屋銀座オリジナルシリアルナンバー入り。お届けは8月上旬頃の予定です。

EVENT3・4月16日(水)ー6月9日(月)
展覧会「コーア・クリント?ーデンマーク家具デザインのはじまりー」

カール・ハンセン&サンと日本デザインコミッティーが手がける、デンマークモダン家具デザインの源流と今を辿る展覧会を松屋銀座7階「デザインギャラリー1953」にて開催。「デンマークモダン家具デザインの父」と称され、世代を超えて数多くのデザイナーに影響を与えたコーア•クリントを紐解くとともに、カール・ハンセン&サンによる、家具職人の育成を目指した独自のアプレンティス (見習い) ワークショップ「THE LAB」の取り組みを紹介します。

松屋銀座リビングでも、100周年記念の催しが続々!

松屋銀座7階ザ・ホーム/デザインコレクション

家具選びのプロフェッショナルである松屋クルーが常駐する「ザ・ホーム」に、1955年に日本デザインコミッティーと松屋が立ち上げたデザインのセレクトショップの草分け的存在「デザインコレクション」と、美しく豊かな暮らしを提案するショップが軒を連ねる7階のリビングフロア。松屋銀座開店100周年を迎える今年は、4月16日(水)から始まる「100脚のYチェア 展示現品特別販売会」や「コーア・クリント?ーデンマーク家具デザインのはじまりー」を皮切りに注目イベントが目白押しです。

PHOTO/MASAHIRO SHIMAZAKI TEXT/NAOKO OGAWA