ギフト需要が高まる和食器のなかでも特に人気の酒器をフィーチャーする「GINZA100―酒器―」が2025年4月16日(水)から発売されます。松屋銀座開店100周年を記念して誕生した、この企画の立役者で和食器バイヤーの生活デザイン部・松田日奈子さんに、企画にかけた思いや取り組みについて伺いました

お話をお伺いしたのは
松屋銀座
松田日奈子さん
PROFILE
生活デザイン部 生活デザイン課 MD担当。和食器バイヤー歴15年以上。「銀座・手仕事直売所」など、手仕事やものづくり、産地に関するイベントなども担当
作り手たちとのつながりと目利き力で、手仕事の美しい和の器をギフトとして提案
産地産まれの日常使いの器ギフトにしたい逸品に
1950年代からデザインを取り入れた暮らしを提案している松屋銀座。国内のクラフトにも着目し、全国各地の手仕事の魅力を常設の売り場や催事を通して伝えてきました。
「GINZA100」は、松屋銀座が発信し続けてきた手仕事の中から産地で生まれる“和食器”をクローズアップする販売企画。これまで築きあげてきた、問屋、窯元・工房、作り手たちとのつながりを活かし、ギフトをテーマに特別感のある和の器を展開していきます。

この企画を立ち上げたのは、生活デザイン部の松田日奈子さん。15年以上にわたって、和食器のバイヤーを務めてきました。
「私が和食器担当になった頃は、和食器売場で扱われる産地の器は作家ものを扱う『特選和食器』とは区別され、“日常の器”というイメージが定着していて、ご自身用に購入される方がほとんどでした。その傾向に変化が現われ始めたのは、近年、工芸や民藝が幅広い層の方々に注目されるようになったことからです」

「松屋銀座では、陶芸家の器だけでなく、産地の名もなき職人による器も取り扱ってきました。例えば、成形は型で行うものの、絵付けは職人が一つひとつ丁寧に手描きしていくような、量産だけど手仕事が生きている美しい器です。このような器は日常のものとして捉えられてきましたが、職人の手仕事に価値が見い出されるにつれて、美しくて品質の高いこれらの器をギフトにしたいという方が増えていったんです」
外国人旅行者にも日本人にも人気の酒器をピックアップ
こうした経緯から、松屋銀座の100周年を機にギフトとしての和食器の魅力を改めて発信していこうと「GINZA100」を企画。より濃密にその魅力を紹介できるよう、和食器の中でも特に人気が高い“酒器”に絞って展開することに。
「実は酒器は、海外からの観光客にとても人気なんです。アジア圏のお客様の中には茶器としてお求めになる方も。さまざまな国の方たちが酒器を受け入れてくださっています」

「もちろん、日本の方々にも人気です。上司の退職祝い、結婚祝いなど、酒器をお祝い事や記念日のギフトにされる方が多くいらっしゃいます。その背景には、『目の肥えた人々が集う銀座の松屋銀座に行けば、きっとよきものが手に入る』というお客様の思いがあるように感じています。だからこそ、銀座の百貨店として自信を持ってお届けできるギフトを、この機会にご紹介していきたいと思いました」

さらに「GINZA100」では、木箱付きの特製パッケージ「ご縁の松」を用意。パッケージには「器の産地」と「お客様の暮らし」を結び、贈る人にも贈られる人にもよきご縁が広がるよう、健康・長寿の象徴で、調和を表す松がデザインされています。選りすぐられた酒器が、さらに特別なギフトになりそうです。
窯元や作り手を訪ねて、一緒に作りあげた器も
「GINZA100―酒器―」では、全国の6つの産地から19の窯元・工房のほか、日本各地の作り手から約100種類の酒器をセレクトしています。

「“100”という数字には、より選び抜かれたという意味合いも持たせました。和食器売り場で培われ、受け継がれてきた“目利き力”を発揮できるクオリティの高い、本物のある場所という思いを込めて。ですから、商品の構成やセレクトにもじっくりと時間をかけて進めていきました」
企画の準備は、普段は売り場に立つ若手社員らとともに、2024年5月頃から本格始動。佐賀県の有田焼や長崎県の波佐見焼をはじめ、産地の問屋、窯元・工房などにも足を運んだと言います。

「今回は、陶器、磁器、ガラスなどの酒器を集めていますが、特に陶器は同じシリーズでも釉薬の流れ具合やにじみ具合、色の濃淡などがひとつずつ微妙に異なりますので、現物を見て、手に取って厳選。酒器でお酒を飲むときは“見込み”と呼ばれる器の内側の底の部分にいちばん目がいきます。見込みがどんな表情をしているかも重視しました」
作り手と直接会えたことも大きな成果。既存の商品にアレンジを加えるなど、作り手と松田さんがアイデアを出し合いながら、この企画のための新たな器を作りました。

「江戸切子の酒器の見込みに桜の模様を入れたり、飲み口に金箔を施したり。釉薬の種類や形のリクエストも。今回、約100種の多彩な酒器を集めることができたのは、みなさんが協力してくださったからこそ。そして、問屋、窯元・工房、作り手たちとのつながりをさらに深め、再構築することもかないました。今回の経験を次へ、またさらに次へとつないで、酒器だけにとどまらず、いろいろな和食器の魅力を紹介していけたらと思っています」



約100種の酒器に出会える、選ぶ楽しみにもあふれた「GINZA100―酒器―」
「GINZA100―酒器―」は、7階「テーブルジョイ」で4月16日(水)よりスタート。ロングセラー品から、モダンな酒器、伝統工芸品まで、色、絵柄、形も多彩な約100種類の酒器が一堂に会します。手描きの絵付け、手ろくろで作ったものなど、さまざまな技巧が活かされた酒器は、コンパクトながらも手仕事の繊細さや丁寧さを感じられるものばかりです。
次からは、今回のセレクトで特に大切にした3つのキーワード別に代表的な酒器をご案内します。

STANDARD 窯元を象徴する釉薬を使用した酒器に注目

「GINZA100―酒器―」では、和食器売り場でおなじみの窯元の酒器が数々登場します。その中から、松屋銀座でロングセラーとなっている、シンプルな形ながら特色ある釉薬を使った酒器をご紹介。
京焼・清水焼窯元「陶葊(とうあん)」からは、冷却する過程で結晶の模様ができる釉薬“結晶釉”、有田焼「真右ェ門(しんえもん)窯」からは油の滴が浮いているかのような模様を生み出す“油敵天目”の酒器を展開。どちらもふたつとして、同じ文様が出ないという特徴があります。

有田焼「真右ェ門窯」/銀河平天目型ぐい呑12100円(左)、渕金天目型ぐい呑(白天目・辰砂)9900円(右・奥)
油滴天目を進化させた釉薬・銀河(青天目)を使用したロングセラー品の銀河平天目型ぐい呑は、星空を思わせる美しさ。ふちに金箔を施すアレンジを加えた新しいデザインの酒器も店頭に並びます

京焼・清水焼/「陶葊」 切立ぐい呑み各5500円
淡く繊細な色彩と、すっきりとスリムなフォルムが印象的な酒器。反った飲み口も特徴的で、口当たりのよさも魅力です。今回は、定番で扱っていないストレートで、シンプルなフォルムのものを選びました
MODERN 現代の暮らしにも合う繊細でかわいらしい酒器

伝統的な手法を用いながら、かわいらしさにもあふれたモダンな酒器もラインナップ。有田焼「皓洋(こうよう)窯」、長崎県の三川内焼「平戸松山(しょうざん)窯」は、陶磁器の名産地にある窯元。どちらも焼きあげると藍色に発色する“呉須”を用いて描く“染付け”という伝統技法で器を作っています。
絵柄も伝統的ではありますが、白磁と藍色が織りなす繊細な趣と現代的なフォルムが融合。「皓洋窯」の酒器には、なんと洋菓子のカヌレの型が使われています。

三川内焼「平戸松山窯」/花牡丹唐草酒盃37400円(左)、間取牡丹唐草酒盃34100円(右)
シンプルモダンな形の酒器に描かれているのは、伝統的な唐草文様と牡丹を組み合わせた間取牡丹唐草。余白を活かして描かれた繊細でやわらかなタッチの文様が、白磁の白色をより引き立てているようです

有田焼「皓洋窯」/カヌレ型酒盃 総蛸唐草7700円(左)、染付丸紋唐草4620円(右)
カヌレの形からインスピレーションを得て誕生したというカヌレシリーズ。「GINZA100―酒器―」では、日本の伝統的な文様でもある丸紋唐草と蛸唐草を絵付した酒器を依頼。優しく上品な逸品に仕上がりました
TRADITION 酒器で楽しむ、技巧を凝らした日本の伝統工芸

「GINZA100―酒器―」には、国の伝統的工芸品に指定された陶磁器・ガラス工芸の酒器も出品されます。約400年の歴史を持つ薩摩焼の伝統を受け継ぐ「渓山窯 南州工房」は、透かし彫りや絵付けが特徴の白薩摩の窯元。今回はより特別な逸品を紹介できるよう、緻密な技巧を凝らした、まさに芸術品と呼べる1点物ものが登場します。
江戸切子は約200年前に誕生した江戸を代表する伝統工芸品。その「硝子工房 彩鳳(さいほう)」の富士山と桜をあしらった酒器にも注目です。

薩摩焼「渓山窯 南州工房」/高台平盃55000円(左)66000円(右)
象牙色の生地と金の彩色を施す金襴手(きんらんで)が特色の白薩摩。驚かされるのが絵付けの細やかさ。器の内側だけでなく、外側にも模様が描かれています。しかもこの工房の酒器はすべて1点もの

江戸切子「硝子工房 彩鳳」/富士桜ぐい呑み各9900円
ガラスに彫刻やカットを施す江戸切子。富士桜ぐい呑みは、ピンクの下地に水色を重ねた色被せガラスを使用したブルーピンクのほか、赤、ルリの3色を用意。富士山に舞い散るような桜は器の底にも!
「GINZA100―酒器―」はこちらで開催

松屋銀座7階テーブルジョイ
和洋食器から家庭用品まで、キッチンとダイニングを彩るアイテムが並ぶ「テーブルジョイ」。4月16日(水)からは「GINZA100―酒器―」のコーナーを特設し、全国から選りすぐった逸品を紹介します。1点ものや数に限りのある酒器もあるため、早めの来店がおすすめです。
GINZA100―酒器―
会期:2025年4月16日(水)発売開始
会場場所:7階テーブルジョイ
PHOTO/MANABU SANO TEXT/MIE NAKAMURA